ダルムシュタットの歴史

ダルムシュタットの歴史：宮廷都市から学術都市へ

ダルムシュタットは、ドイツ連邦共和国ヘッセン州南部に位置する都市です。その歴史は古く、フランク人入植地を起源とし、中世には都市として発展しました。ヘッセン＝ダルムシュタット方伯領の宮廷所在地として政治的な中心地となり、19世紀にはヘッセン大公国の首都として繁栄を極めました。しかし、第二次世界大戦で壊滅的な被害を受け、戦後は政治的重要性を失いましたが、ユーゲントシュティール運動の中心地、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会などで知られる芸術文化都市として、その存在感を示しています。

先史時代：古代の痕跡

ダルムシュタット地域における人類の活動は、新石器時代に遡ります。紀元前4000年から5000年頃には、線帯文土器文化やレッセン文化が伝播し、農耕が始まりました。紀元前2000年頃には、金属加工技術や新しい土器製作術を持つ民族が移住し、墳墓などの遺跡が残されています。青銅器時代には、墳丘の下に埋葬する独特の文化を持つ民族が現れ、陶器や装身具、武器などの副葬品から、当時の文化的な隆盛が伺えます。紀元前1200年頃には、社会構造の変化とともに文化構造も変化し、農耕が盛んになり、火葬が行われるようになりました。

村から都市へ：中世の胎動

ダルムシュタットの村落は、8世紀から9世紀にかけてフランク人によって建設されたと考えられています。11世紀末には、Darmundestatとして歴史に初めて登場し、徴税の許可を得たことが記録されています。13世紀の中頃には、カッツェネルンボーゲン伯がダルムシュタットの近くに水城を建設し、その周辺に2つの町が形成されていきました。

都市権と市壁の建設：中世都市の確立

1330年、皇帝ルートヴィヒ4世はカッツェネルンボーゲン伯にダルムシュタットの都市権を授けました。これにより、市場の開催権が付与され、ダルムシュタットは経済的に発展し、近隣地域からの人々が集まるようになりました。ベルクシュトラーセという街道に面していたことも、経済的な利点となりました。都市権獲得後、市域は拡大し、2つの町は一体化し、市壁が建設されました。14世紀から15世紀にかけて、カッツェネルンボーゲン伯は城の増改築を行い、ダルムシュタットは副首都として発展しました。

方伯時代：宮廷都市の形成

統一ヘッセンの晩年：戦乱と停滞

1479年にカッツェネルンボーゲン伯が断絶した後、ダルムシュタットはヘッセン方伯領となりました。しかし、権力の中枢からは遠く離れた位置に置かれ、社会構造も農村的なままでした。16世紀には、フランツ・フォン・ジッキンゲンの攻撃やシュマルカルデン戦争によって城館や都市が破壊され、再建に長い年月を費やしました。フィリップ方伯の時代には、宗教改革が行われ、皇帝との対立が深まりましたが、ダルムシュタットの経済は比較的安定していました。

ヘッセン＝ダルムシュタット方伯の創設：宮廷都市への飛躍

1567年にヘッセンが分割されると、ゲオルク1世がヘッセン＝ダルムシュタット家を創設し、ダルムシュタットは宮廷都市として発展を遂げました。ゲオルク1世は、城館の再建、市庁舎の建設、司法改革などを行い、都市の再建に尽力しました。また、教育制度の整備や社会福祉の基礎を築きました。しかし、魔女狩りやペストの流行も発生し、多くの犠牲者が出ました。

三十年戦争、ペスト、飢餓：苦難の時代

17世紀に入ると、三十年戦争やペストの流行によって、ダルムシュタットは大きな被害を受けました。ヘッセン＝カッセル方伯との争いやフランス軍による占領など、戦乱が相次ぎ、都市は荒廃し、周辺地域からの避難民がペストを蔓延させました。ヴェストファーレン条約によって戦争が終結すると、ダルムシュタットは徐々に回復に向かいましたが、方伯と市参事の間で権力闘争が起こりました。

平和と新たな興隆：バロック都市の建設

1661年からのルートヴィヒ6世の治世には、平和と経済発展が戻り、建設工事が再び盛んになりました。しかし、市参事の選挙に対する方伯の介入など、領主特権の拡大が進められました。1688年以降は、外交状況が悪化し、フランス軍の攻撃を受けましたが、エルンスト・ルートヴィヒ方伯は都市の再建に尽力し、多くの代表的な建築物が建設されました。

経済の低迷と文化の開花：啓蒙専制君主の時代

エルンスト・ルートヴィヒ方伯は、ユグノー派の移住を奨励し、ユダヤ人やカトリック教徒にも宗教の自由を認めましたが、領邦の財政は悪化しました。ルートヴィヒ9世は、宮廷をピルマゼンスに移しましたが、方伯妃ヘンリエッテ・カロリーネはダルムシュタットにたびたび訪れ、文化的な興隆に貢献しました。

ヘッセン大公国時代：近代都市の形成

方伯の終焉と大公国の創設：ナポレオン戦争の影響

1790年にルートヴィヒ10世が即位し、宮廷がダルムシュタットに戻されました。1803年の帝国代表者会議主要決議により、ヘッセン＝ダルムシュタット方伯は多くの領土を得て、1806年にはライン同盟に加盟し、ナポレオンから大公位を授けられました。

三月革命以前、工業化：社会の変化

初代大公の下で人口は増加し、モラーシュタットが建設されました。1820年には二院制が導入されましたが、選挙制度は民主的とは言えませんでした。1848年の革命運動はダルムシュタットにも伝播し、ルートヴィヒ3世は国民に愛される統治者として、民主化や社会主義の活動を防ぎました。また、工業化が進み、化学企業のメルクが最初の工場を建設し、貧困層に雇用機会を与えました。

ドイツ帝国と第一次世界大戦：ユーゲントシュティールの隆盛と戦争の影

ドイツ帝国の創設期には経済が繁栄し、1888年にベッスンゲンがダルムシュタットに合併しました。1899年には、大公エルンスト・ルートヴィヒがマチルダの丘に芸術家コロニーを設け、ユーゲントシュティール発展の中心地となりました。第一次世界大戦の勃発とともに建設工事は減少し、戦争があらゆる発展を停止させました。1918年の11月革命後、ダルムシュタットはヘッセン人民州の首都となりました。

近代：戦争と復興、そして現代へ

ヴァイマル共和制：経済危機と社会の混乱

戦後、ダルムシュタットは経済危機に見舞われ、食糧難、高い失業率、社会的緊張が生じました。1930年代からは、国家社会主義が力を持ち始めました。

国家社会主義と第二次世界大戦：都市の破壊

1933年の選挙後、国家社会主義者による政敵の逮捕やユダヤ人の排斥が行われました。1938年の水晶の夜には、シナゴーグが放火され、ユダヤ人の商店が破壊されました。第二次世界大戦中、ダルムシュタットは空爆を受け、1944年9月11日から12日の夜には「大火の夜」と呼ばれる空爆によって、都市は一夜にして廃墟と化しました。1945年3月25日にアメリカ軍がこの都市を占領し、国家社会主義と戦争が終結しました。

戦後復興、現代：学術都市としての再生

戦後、ダルムシュタットは復興に取り組み、城館、市庁舎、国立博物館などの歴史的建造物が再建されました。1972年には新しい劇場が建設され、1977年にはショッピングセンター「ルイーゼンセンター」が建設されました。ダルムシュタットには多くの研究機関があり、1997年には「学術都市」の称号を与えられました。

ダルムシュタットは、長い歴史の中で、様々な変遷を経てきました。宮廷都市としての繁栄、戦禍による破壊、そして戦後の復興。現代では、学術都市として、新たな発展を目指しています。

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