ダンドゥット

ダンドゥット：インドネシアを魅了する音楽の進化

ダンドゥットは、インドネシアを代表するポピュラー音楽ジャンルです。1990年代以降、国民的な人気を博し、インドネシアの音楽文化に大きな足跡を残しています。本稿では、ダンドゥットの歴史、音楽的特徴、社会的な影響、そして重要なアーティストたちについて詳細に探っていきます。

ダンドゥットの起源：ムラユ音楽からの出発

ダンドゥットのルーツは、ムラユ音楽にあります。ムラユ音楽は、マレー半島やインドネシア、シンガポールなどで演奏される伝統的なポピュラー音楽で、西アジアや南アジアの音楽的要素を色濃く反映しています。1930～40年代、オルケス・ムラユと呼ばれる複数の楽団による演奏が盛んになり、ダンドゥットの原型が形成されていきました。

初期のダンドゥットは、歌声に加え、クンダン（片面太鼓）やスリン（竹製横笛）といった伝統的な楽器の演奏が特徴でした。その後、インド映画音楽や西洋ロック音楽などの要素が加わることで、ダンドゥットは独自の進化を遂げていきます。

名称の由来：「ンンドゥット」から「dangdut」へ

ダンドゥットという名称が定着する以前は、「イラマ・ムラユ」や「ムラユ・モデルン」と呼ばれていました。現在の名称は、インド音楽のリズム「グンダン」に由来します。グンダンを演奏する際、親指で太鼓を打つと「ンンドゥット」という音が発生することから、この言葉が音楽ジャンルを指すようになったと言われています。1973年以降、新聞記事などで「ダン-ドゥット」という表記が見られ始め、1975年以降「dangdut」に統一されていきました。

ダンドゥットの躍進：1970年代から1990年代

1960年代には、ダンドゥットの原型が確立されましたが、当初は下層階級の音楽とみなされ、中上流階級からは敬遠される傾向がありました。しかし、1967年のラジオ局設立の自由化をきっかけに、民間のラジオ局がダンドゥットを積極的に放送するようになり、全国的に人気が広がっていきました。

1970年代には、アナウンサーのアジズ・ドゥリタがラジオ番組で「ダンドゥット」という名称を使用し、それが一般に浸透。ロマ・イラマの大ヒット曲『夜更かし』の成功も、ダンドゥットの普及に大きく貢献しました。テレビやラジオの普及、カセットテープの低価格化、そしてダンドゥットを題材にした映画のヒットも、その発展を後押ししました。

1990年代には、民間のテレビ局の増加により、ダンドゥットは中上流階級にも支持を拡大。カセットテープの売上の30～40％をダンドゥットが占めるほどになり、まさに国民的な音楽ジャンルへと成長を遂げました。

2000年代以降：イヌル・ダラティスタと新たな挑戦

1998年のスハルト政権崩壊後、ダンドゥットはイヌル・ダラティスタの登場によって新たな転換期を迎えました。彼女のセクシーな衣装やパフォーマンスは、大きな話題を呼びました。しかし、イスラム保守派からの批判や反発も強まり、ダンドゥットは社会的な議論の的にもなりました。現在でも、イヌル以降の女性歌手によるセクシーな衣装やダンスは、ダンドゥットの魅力のひとつとして受け継がれています。

代表的アーティスト

ダンドゥットの歴史には、多くの才能あふれるアーティストたちが関わってきました。初期には、ロマ・イラマ、エルフィ・スカエシ、イダ・ライラなどが人気を博し、現代に至るまで、数多くのアーティストがダンドゥットシーンを盛り上げています。

まとめ

ダンドゥットは、ムラユ音楽をルーツに、インド音楽や西洋音楽などの多様な要素を取り込みながら、独自の進化を遂げてきた音楽ジャンルです。社会情勢や文化的な変化の影響を受けながらも、国民的な人気を維持し、インドネシアの音楽文化を象徴する存在となっています。その歴史と変遷、そして数々のアーティストたちの活躍を通して、ダンドゥットの豊かな魅力を改めて知ることができました。

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