ダヴル

ダヴル

ダヴル（ダウルとも）は、ばちを用いて演奏される大型の両面太鼓です。トルコ、バルカン半島諸国、ギリシャ、中近東、アルメニアなど、ヨーロッパからアジアにかけての広範な地域で民族音楽に不可欠な存在であり、各地で異なる名称を持ちます。

最大の特徴は、異なる打面と太さの異なる二種類のばちを使い分け、深い低音と鋭い高音を一台で生み出せる点にあります。

各地での名称

国や地域により多様な名称で呼ばれます。代表的なものに、ブルガリアなどのタパン（Tapan）、トルコのダヴル（Davul）、ルーマニアのトバ（Tobă）、ギリシャのダウリ（Daouli）、アルメニアのドール（Dhol）、アラビア語圏のタブル（Tabl）などがあります。

構造

胴（シェル）は硬質な木材を加工して作られ、打面には動物の皮が張られます。異なる音色のため、皮の種類を使い分けるのが一般的です。打面の張力は、胴を横断するロープで調整します。ロープを締め緩めることで音程や響きを変えることが可能です。

楽器のサイズは地域により幅広く、ブルガリアなどでは大小２種類（約30-55cm）、トルコでは60-90cm、ギリシャでは一般的に50-80cm程度です。

奏法

奏者は楽器を横抱きにし、左右の手に持ったばちで両面のヘッドを叩いて演奏します。演奏には通常、形状や太さの異なる二種類のばちを用います。

利き手には棍棒状の太いばちを持ち、厚い皮の面を叩いて低音とアクセントを刻みます。反対の手にはしなやかな細い棒を持ち、薄い皮の面を叩いて弱拍や装飾的なフレーズを演奏します。低音側に布を使って音色を調整することもあります。

バルカン半島の一部ではタパン単独での旋律的な演奏も行われます。

歴史と伝統的な利用

ダヴルは非常に古い楽器で、アナトリアを経て各地へ伝播しました。

バルカン半島南部では、タパンは複雑なリズムを持ち、ズルナやガイダなど他の楽器と組み合わせて演奏されるのが一般的です。単独での舞踊や民謡伴奏にも使われ、ブルガリアの祭りや結婚式には欠かせません。

ルーマニアやモルドバのトバは舞踊の伴奏に用いられます。

トルコやアルメニアでは、主にズルナと組み合わされ、かつては軍事通信やメフテル音楽にも使われました。

イラクやレバント地域では、アッシリア人の民族舞踊や音楽に用いられ、ここでもズルナとの組み合わせが一般的です。

アルメニアのドールは口径が小さく、通常素手で演奏（スプーン型ばちも使用）されます。民族音楽や現代音楽で使用されています。

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