ダーティー・ダズン・ブラス・バンド

ダーティー・ダズン・ブラス・バンドは、アメリカ合衆国ルイジアナ州、音楽の都ニューオーリンズで1977年に産声を上げたブラスバンド・グループです。伝統的なニューオーリンズ・ブラスバンドのサウンドを基盤としながらも、革新的にファンクやソウルといったモダンな音楽要素を融合させたそのスタイルは、その後の多くのブラスバンドに多大な影響を与え、ニューオーリンズ・ブラスバンド・シーンにおいて最も知名度と人気を誇るアクトの一つとして広く認知されています。

バンドの歩みは、1977年に始まりました。前身となるトルネード・ブラスバンドに所属していたグレゴリー・デイヴィス（トランペット）、カーク・ジョセフ（スーザフォン）、チャールズ・ジョセフ（トロンボーン）、ケヴィン・ハリス（サクソフォーン）の4名が中心となり、これにエフレム・タウンズ（トランペット）、ロジャー・ルイス（サクソフォーン）、ベニー・ジョーンズ（バスドラム）、ジェネル・マーシャル（スネアドラム）の4名が加わって、8人体制で結成されました。当初はストリート・パレードを中心とした活動を展開していました。

大きな転機が訪れたのは1984年。コンコード・レコードからアルバム『マイ・フィート・キャント・フェイル・ミー・ナウ（My Feet Can't Fail Me Now）』で正式にレコード・デビューを果たします。そして1987年には、より大きなレコード会社であるコロムビア・レコードへ移籍し、アルバム『ヴードゥー』をリリースしました。この作品では、ジャズ界の巨匠ディジー・ガレスピー、ニューオーリンズの象徴であるドクター・ジョン、著名なサクソフォーン奏者ブランフォード・マルサリスといった錚々たる顔ぶれがゲスト参加し、バンドの音楽性と知名度を一気に高めました。続く1989年のアルバム『ザ・ニューオーリンズ・アルバム』でも、エルヴィス・コステロをはじめとする多彩なアーティストが参加しており、同時期にはダーティー・ダズン側もコステロのアルバム『スパイク』に参加するなど、ジャンルを超えたコラボレーションを積極的に行いました。

しかし、1990年代に入るとバンドは大きな変革期を迎えます。1991年には、結成当初からのメンバーであったカーク・ジョセフとチャールズ・ジョセフが相次いで脱退しました。バンドはカークが担当していたスーザフォンの後任として別のスーザフォン奏者を迎える一方、新たにエレクトリックベース奏者をメンバーに加えました。さらに1993年にはバスドラムのベニー・ジョーンズも脱退し、後任としてライオネル・バティストが加入するも翌年には脱退。これによりバンドはバスドラム奏者に加えて、ドラムセットを担当するドラマーも導入します。その後、ギターやキーボード奏者も加わり、徐々にブラスバンド特有の編成から、より一般的なバンド編成へと変化していきました。このメンバーチェンジと楽器編成の変更に伴い、バンドのサウンドは結成当初のニューオーリンズ・ブラスバンド固有の響きから変化していきましたが、活動は継続されています。

2000年代以降も精力的に活動を続け、ロックバンドのワイドスプレッド・パニックとのコラボレーションアルバム『アナザー・ジョイアス・オケイジョン』や『ナイト・オブ・ジョイ』をリリースするなど、ジャンルを越境する姿勢を示しました。また、故郷ニューオーリンズへの思いも強く、2004年にはその年に亡くなったチューバ奏者、チューバ・ファッツに捧げた追悼アルバム『フューネラル・フォー・ア・フレンド』を発表。2006年には、ハリケーン・カトリーナ襲来から1年にあたるタイミングで、マーヴィン・ゲイの名盤を独自に解釈したコンセプトアルバム『ホワッツ・ゴーイング・オン』をリリースし、当時のブッシュ政権の政策に対する批評的なメッセージも込めました。これらの活動からも、単なるエンターテイメントに留まらない、社会的な視点を持つグループであることがうかがえます。

ダーティー・ダズン・ブラス・バンドは、メンバーの変遷を経ながらも、ニューオーリンズ音楽の伝統を守りつつ、常に新しい音楽の可能性を追求してきました。その革新的な精神は、今日のブラスバンド・シーンにおいて、確固たる地位と多大な影響力を持ち続けています。

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