ダーフィト・シュトラウス

ダーフィト・フリードリヒ・シュトラウス：聖書批判とヘーゲル哲学の継承者

ダーフィト・フリードリヒ・シュトラウス (1808-1874) は、19世紀ドイツを代表する神学者にして哲学者です。青年ヘーゲル派の一員として知られ、その革新的な聖書解釈は、当時の神学界に大きな衝撃を与えました。本稿では、彼の生涯と、特にその代表作『イエスの生涯』に焦点を当て、その思想的影響を考察します。

シュトラウスはシュトゥットガルト近郊で生まれ、テュービンゲン大学で神学を学びました。しかし、大学の教授陣には魅力を感じず、フリードリヒ・シュライエルマッハーやヘーゲル哲学に傾倒していきました。1830年には聖職者の助手となり、その後教師としてヘブライ語、ラテン語、歴史などを教え、1831年にはシュライエルマッハーとヘーゲル哲学を学ぶためベルリンへ赴きました。しかし、到着直後にヘーゲルが亡くなったため、シュライエルマッハーの講義を受けることになります。シュライエルマッハーの思想は、後のシュトラウスの著作に大きな影響を与えました。

1832年には大学講師となり、哲学教師として成功を収めます。そして、27歳の若さで発表された『イエスの生涯』は、センセーションを巻き起こしました。この著作でシュトラウスは、福音書に記された奇跡を歴史的事実としてではなく、「神話」として解釈しました。これはキリスト教における歴史主義への批判であり、同時にヘーゲル歴史哲学の発展とも捉えることができます。イエス・キリストを単なる個人ではなく、人類全体の精神的実現として捉え直すことで、シュトラウスは独自のキリスト教観を提示しました。

『イエスの生涯』は、当時の神学者たちから激しい批判を浴びました。「ユダの裏切りのような、我々にとって一番有害な本だ」という酷評もあったと伝えられています。しかし、シュトラウスは批判への反論を著し、議論を巻き起こしながらも、神学界における自身の立場を確保しようと試みました。その後、『キリスト教の教説』を発表した後、約20年間、神学の論壇から身を引きます。大学教職への道は閉ざされ、以後彼は著述家として活動することになります。

晩年、シュトラウスは再び神学的研究を再開しました。完全な無神論者ではなかったものの、進化論に基づいた汎神論的な思想を展開しました。彼の思想は、当時の青年ヘーゲル派の哲学者のみならず、実存主義にも間接的な影響を与えたと考えられています。現在でも、『イエスの生涯』は、ヘーゲル研究やニーチェ、シュヴァイツァーといった著名な哲学者たちの研究において重要なテーマとして取り上げられています。シュトラウスの聖書批判は、現代神学のあり方にも多大な影響を与え続け、その功罪は未だに議論の的となっています。彼の生涯と業績は、19世紀ドイツにおける思想史、神学史、哲学史を理解する上で欠かせないものです。

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