チェリー・ジュビレ

チェリー・ジュビレは、冷たいバニラアイスクリームと、温かく調理されたダークチェリーのソースが織りなす、温度のコントラストが特徴的なデザートです。このソースには、キルシュヴァッサーなどの果実酒が加えられるのが一般的です。

この優雅なデザートの誕生は、19世紀末のイギリス、具体的には1897年に遡ります。当時の英国君主ヴィクトリア女王の即位50周年記念祝典が開催された際、その祝宴の料理責任者を務めた高名な料理人オーギュスト・エスコフィエによって考案されたと伝えられています。エスコフィエは、近代フランス料理の技術と体系を確立した人物として知られており、彼の創造性がこのデザートにも息づいています。特別な記念行事のために生み出されたという背景は、チェリー・ジュビレが持つ格式高さの由来となっています。

「チェリー・ジュビレ」あるいは英語で「チェリー・ジュビリー」と呼ばれるこのデザートの名前は、フランス語の「jubilé」または英語の「jubilee」に由来します。これらの言葉は「50周年記念祭」や「金婚式」といった、区切りの良い記念日を祝う意味で用いられます。デザートがヴィクトリア女王の即位50周年という「ジュビリー」にあたる年に作られたことから、その名称が冠されたと考えられており、文字通り「記念」に捧げられたデザートと言えます。

チェリー・ジュビレの核となる温かいソースは、ダークチェリーを砂糖と共に煮詰め、そこにキルシュヴァッサーなどの上質な酒を加えて風味豊かに仕上げられます。このデザートの提供時には、しばしば印象的な演出が加わります。特に伝統的なレストランでは、顧客のテーブルサイドでソースに火をつける「フランベ」が行われることがあります。ソースにアルコール分が含まれているため可能なこの演出は、炎が立ち上る視覚的な美しさに加え、アルコールが揮発する際に放たれる芳醇な香りが食欲をそそり、デザート体験を一層特別なものにします。

近年、日本の地域資源を活用して、この古典的なデザートに新たな価値を見出す試みが行われています。その一例が、青森県南部町での取り組みです。この地域で栽培されている高級サクランボ品種「ジュノハート」は、大粒で美しい外観が評価されていますが、収穫量の約6〜7割が、形や大きさが不揃いといった理由で市場に出荷されない「規格外品」として扱われ、廃棄されてしまう現状がありました。この課題解決のため、規格外品のジュノハートを有効活用するアイデアとして、チェリー・ジュビレ用のソースが開発されました。「Sakura“N”bow」（サクラエンボウ）と名付けられたこのソースは、本来なら捨てられてしまうはずだった高品質なサクランボに新たな命を吹き込み、日本の食材を使ったチェリー・ジュビレの可能性を広げています。これは、フードロス削減と地域特産品の付加価値向上という、現代的な課題に対する応答とも言えます。

チェリー・ジュビレは、その格式ある誕生秘話、記念日を祝う名、そしてドラマティックなフランベ演出から、特別な瞬間を彩るデザートとして、今日なお世界中で多くの人々に愛されています。伝統を受け継ぎながらも、日本の地域における革新的な取り組みも見せるこのデザートは、歴史と現代を結びつける興味深い存在と言えるでしょう。

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