チェロソナタ (リヒャルト・シュトラウス)

チェロソナタ ヘ長調 作品6

リヒャルト・シュトラウスが手掛けたチェロとピアノのための作品の中で、ソナタ形式を持つのはこのヘ長調 作品6が唯一です。これに加えて、同時期の1883年にはチェロと管弦楽のための『ロマンス』も作曲されています。

作曲の背景

本作が書かれたのは、シュトラウスが18歳でミュンヘン大学に入学した頃にあたる1882年から翌1883年にかけてです。シュトラウスは若い頃からチェロの音色に特別な魅力を感じていましたが、作曲の直接的なきっかけとなったのは、当時ミュンヘン宮廷管弦楽団の首席チェロ奏者を務めていたハンス・ヴィーハンとの出会いでした。ヴィーハンは1881年にシュトラウスの『弦楽四重奏曲』の初演に参加しており、その頃から親しい交流があったと言われています。

初演と評価

作品の初演は1883年12月8日、ニュルンベルクで行われました。チェロをハンス・ヴィーハンが、ピアノをヒルデガルト・フォン・ケーニヒスタールが担当しました。演奏家、聴衆双方から好意的に受け止められ、この成功がシュトラウスに大きな自信を与え、同年にチェロと管弦楽のための『ロマンス』を作曲する後押しとなりました。

出版と献呈

楽譜は初演に先立つ1883年10月、ミュンヘンのヨーゼフ・アイプル社から出版されましたが、後にウィーンのウニヴェルザール出版社に版権が移管されました。作品は、初演者であり交流のあったチェロ奏者、ハンス・ヴィーハンに献呈されています。

楽曲構成

ソナタは以下の3つの楽章で構成されており、全曲の演奏時間は約24分です。楽想や構成には、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスといった先人たちの影響が多く見られます。

1. 第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ
ヘ長調、4分の3拍子。ソナタ形式。ピアノによる和音と分散和音に乗って、チェロが歌い上げる抒情的な旋律が第一主題を形成します。展開部では、第一主題の断片や小結尾の主題が巧みに組み合わされます。結尾は第一主題に基づき力強く締めくくられます。

2. 第2楽章 アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
ニ短調、4分の2拍子。三部形式。メンデルスゾーンの『無言歌』を思わせるような、ロマンティックな抒情性が色濃く表れた楽章です。

3. 第3楽章 フィナーレ．アレグロ・ヴィーヴォ
ヘ長調、8分の6拍子。ソナタ形式。当初は別の楽章（4分の3拍子のアレグロ）が構想されていましたが、現在の楽章に差し替えられました。軽快で生き生きとした第一主題に始まり、経過部では第一主題の動機を含むチェロの旋律が活躍します。結尾は第一主題に基づき、力強く華やかに終結します。なお、シュトラウスはこの作品を作曲中にバイロイトを訪れており、楽章にはリヒャルト・ワーグナーの楽劇『パルジファル』第2幕から着想を得たと思われる和声法が引用されています。

関連作品：ロマンス ヘ長調 AV.75

このソナタが完成したのと同じ1883年には、チェロと管弦楽のための単一楽章作品である『ロマンス』ヘ長調も作曲されました。この曲は同年6月27日に完成し、初演は翌1884年2月15日、バーデン＝バーデンでヴィーハンによって行われました。その後、フライブルクやアーヘンなどで演奏された記録がありますが、残念ながら生前には出版されず、1980年に再発見されるまで長い間忘れられた存在となっていました。

シュトラウス自身は後にこの『ロマンス』をチェロ協奏曲の緩徐楽章として使用しようと試みましたが、自身のオーケストレーションに満足せず、その構想は放棄されました。

現在、管弦楽伴奏による演奏は稀であり、多くの場合、ピアノ伴奏版で演奏されています。

* 構成: アンダンテ・カンタービレ、ヘ長調、8分の3拍子。演奏時間は約10分です。

このチェロソナタと『ロマンス』は、若きシュトラウスが室内楽、そしてチェロという楽器の可能性を探求した貴重な初期作品であり、その後の彼の作風を予感させる片鱗が随所に見られます。

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