チェロソナタ第1番 (ブラームス)

ブラームス：チェロソナタ第1番 ホ短調 作品38

ヨハネス・ブラームスが作曲したチェロソナタ第1番 ホ短調 作品38は、彼が手がけた二つのチェロソナタのうち、最初に完成された重要な室内楽作品です。ブラームスは生涯を通じて数多くの優れた室内楽曲を残しましたが、チェロとピアノのためのソナタは、この第1番と後の第2番（ヘ長調 作品99）の二曲が今日に伝えられています。

作曲の背景と道のり

ブラームスは本作以前にも、チェロソナタの作曲を試みたことがありました。18歳頃にあたる1851年頃には、既に一つのチェロソナタ（Anh.IIa-10）を作曲し、演奏会で披露した記録が残っていますが、これは作曲家自身の厳しい自己批判により、完全に破棄されて現存していません。また、後に第1番の緩徐楽章となる構想で1862年頃に作曲された楽章（Anh.IIa-9）も存在しましたが、これは検討の末に本作からは削除されました。しかしこの楽章は後に、チェロソナタ第2番で形を変えて活用されたことが知られています。こうした初期の試行錯誤を経て、ようやく本作の完成へと向かうことになります。

チェロソナタ第1番の作曲作業は、1862年頃には既に開始されていたと考えられており、この時期には第1楽章がほぼ完成していたようです。しかし、同時期にブラームスはライフワークの一つとなる大作『ドイツ・レクイエム』の作曲にも着手しており（1857年頃から）、そちらの作業と並行していたこともあり、本作の完成には時間を要したと言われます。

楽章ごとの完成時期を見ると、第2楽章は比較的遅く、1865年の2月に完成しています。そして、最後の第3楽章が同年夏に書き上げられたことで、全曲が完成に至りました。当初、ブラームスはこのソナタを4つの楽章で構成することを考えていましたが、前述のように緩徐楽章を削除したため、最終的には3楽章制の作品となりました。緩徐楽章を持たないこの構成は、作曲家が大先輩と仰いだベートーヴェンの初期のソナタ（例えばピアノソナタ第2番や第3番など）に倣った可能性が指摘されています。

楽曲の構成

本作は全3楽章から成り、標準的な演奏時間は約27分です。各楽章は以下のような特徴を持っています。

第1楽章：アレグロ・ノン・トロッポ
ホ短調、4分の4拍子によるソナタ形式。ブラームスらしい重厚で内省的な主題が提示されます。展開部を経て再現部に入り、最後は光の射すようなホ長調で静かに閉じられます。

第2楽章：アレグレット・クワジ・メヌエット
イ短調、4分の3拍子による三部形式。メヌエットと記されていますが、どことなく憂いを帯びた、ブラームス特有の抒情的な性格を持つ楽章です。中間部では明るさが加わります。

* 第3楽章：アレグロ
ホ短調、4分の4拍子。非常に力強く、自由な形式によるフーガ楽章です。この楽章は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの偉大な作品『フーガの技法』の中から、コントラプンクトゥス第13番の主題を引用していることが知られています。ブラームスのバッハへの深い敬愛と、対位法への高度な技術が示された圧巻のフィナーレです。

全体として、このチェロソナタ第1番は、ブラームス初期の創作における充実期を代表する作品の一つであり、その後の彼の室内楽作品の方向性を示す重要な位置を占めています。チェロの深く豊かな響きとピアノの対等な関係が見事に融合した傑作として、今日でも多くのチェリストや聴衆に愛されています。

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