チェンジリング (1980年の映画)

チェンジリング

『チェンジリング』（The Changeling）は、1980年にカナダで製作されたホラー映画です。ピーター・メダックが監督を務めた本作は、「取り替え子」の伝承を背景に、不可解なポルターガイスト現象が巻き起こす恐怖を描き出しています。

当時のホラー映画界では、派手な特殊メイクや大量の血飛沫を用いる視覚的なショック描写が流行していました。しかし、『チェンジリング』はそうした潮流とは一線を画し、安易なゴア描写に頼ることなく恐怖を表現しています。

本作の大きな特徴は、主人公が経験する深い喪失感と、それに伴う心理的な揺れ動きを丁寧に追っていく点にあります。観客は主人公の視点を通して、説明のつかない現象への困惑、そして徐々に募る恐怖を共に体験することになります。

具体的な恐怖演出の手法としては、突如として出現する関連性の示唆される小道具や、緻密に設計された音響効果が効果的に用いられています。これらによって、観客は視覚的な衝撃ではなく、じわじわと心の奥底に忍び寄るような、より根源的な不安と戦慄を感じさせられます。物理的な暴力描写よりも、屋敷そのものが持つ歴史や隠された過去が引き起こす超常現象に焦点を当てることで、独特の静謐かつ陰鬱な雰囲気を醸し出しています。

物語は、不慮の交通事故により一度に家族すべてを失った作曲家、ジョン・ラッセルを主人公として始まります。深い悲しみから逃れるように、妻子と暮らしたニューヨークを離れ、シアトルの大学で音楽を教える職に就きます。

シアトルに到着したラッセルは、友人の紹介を通じて知り合った歴史保存協会に勤めるクレアという女性の助けを借ります。彼女の紹介で、カーマイケル財団が所有する「チェスマン・ハウス」と呼ばれる歴史ある古い屋敷を借りて住むことになります。しかし、この屋敷に移り住んで間もなく、彼の安息は破られます。夜な夜な、屋敷の中で何かが叩きつけられるような轟音が発生し、様々な不可解な現象がラッセルを襲い始めるのです。

これらの異変は単なる騒音ではなく、屋敷に宿る何かからのメッセージであるかのように見え始めます。ラッセルは自らの平穏を取り戻すため、そしてこれらの現象の正体を探るために、屋敷の過去やそこにまつわる隠された真実を調べ始めます。彼の探求が進むにつれて、チェスマン・ハウスの暗い歴史、そして「取り替え子」のテーマがどのように現象に関わっているのかが徐々に明らかになっていきます。

日本での公開時には、ユニークなエピソードがありました。配給会社の判断により、エンディングにオリジナルの楽曲ではなく、日本のニューウェーブバンド、ヒカシューの楽曲『パイク』がイメージソングとして採用され、差し替えられて上映されたのです。さらに、テレビ放送時には、日本語吹き替え版ではオリジナルのエンディング曲が使用された一方で、副音声の英語音声ではなぜか差し替えられたはずの『パイク』が流れるという、奇妙な音声の逆転現象が見られました。これは、日本の映画ファンの間でしばしば語られる興味深い出来事となっています。

『チェンジリング』は、派手さはないものの、練られた脚本と演出、そして主人公の心理描写を通して、真に恐ろしい雰囲気を創り出すことに成功した、ホラー映画史において独特の地位を占める作品と言えるでしょう。

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