チェンマイ・イニシアティブ

チェンマイ・イニシアティブ（CMI）とは

チェンマイ・イニシアティブ（Chiang Mai Initiative Multilateralisation, CMIM）は、東アジア地域における通貨スワップとレポ取引の取り決め、および地域金融セーフティーネットを指します。これは、アジア通貨危機を教訓として、為替相場の急激な変動を抑制し、為替・金融市場の安定を確保することを目的として設立された外貨融通のシステムです。

概要

2016年現在、ASEAN+3の全13カ国が参加しており、危機対応のための枠組みを提供することを目的とした国際約束ですが、2023年12月時点までの利用実績はありません。当初は二国間協定のネットワークとして始まりましたが、後に多国間協定へと発展しました。

チェンマイ・イニシアティブ (CMI) の発足

1999年11月の第3回ASEAN+3首脳会議で「東アジアにおける自助・支援メカニズム強化」の必要性が合意されました。この合意に基づき、2000年5月の第2回ASEAN+3蔵相会議（タイ・チェンマイ）にて、二国間通貨スワップ取極のネットワーク構築が合意されました。当初、CMIはASEAN+3各国間の二国間契約によって構成され、2003年末には日本、中国、韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの8カ国が参加しました。

通貨スワップはIMF融資と連携して発動する仕組みでしたが、IMF融資がなくとも締結スワップ総額の20％までは発動可能でした。発動された場合は、二国間で外貨準備を融通しました。設立当初はサーベイランス（監視）機能が未成熟であり、域内の経済情勢に関する政策対話（ERPD）において、サーベイランス強化の方策が模索されました。

2009年4月6日時点で、8カ国間で16件、名目合計900億ドル、実質合計640億ドルの契約が締結されました。

チェンマイ・イニシアティブ・マルチ(CMIM)への発展

2009年5月4日、マドリードで複数国間の契約による一本化、すなわちマルチ化が合意され、少なくとも800億ドル規模の共同声明が採択されました。同年12月28日には、貢献額の規模が1200億ドルと発表され、日本と中国（香港を含む）が32%、韓国が16%を負担することが決定しました。この多国間契約は、2010年3月24日に発効しました。

CMIMは、二国間で外貨準備を融通する形態から、多国間契約による一本化に移行し、通貨スワップ発動のための当局間における意思決定プロセスを共通化しました。また、ASEAN新規加盟国（ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム）を含むASEAN+3の全13カ国が参加し、規模が拡大しました。

IMFプログラムとの連携無しに発動可能な割合は30％に引き上げられ、より機動的な役割が期待されています。さらに、AMRO（ASEAN+3マクロ経済調査事務局）の設立により、サーベイランス機能も強化されました。

2014年7月17日には資金枠が1200億ドルから2400億ドルへ倍増され、IMFとの連携なしに利用可能な割合が20%から30%へ引き上げられました。2021年3月31日には、この割合が40%へとさらに引き上げられました。

ASEAN＋3マクロ経済調査事務局（AMRO）

2011年、シンガポールに域内経済の監視機関としてAMROが設立されました。初代ディレクターには中国の魏本華氏が就任し、その後、日本の根本洋一氏、中国の常軍紅氏と引き継がれ、2019年5月からは日本の土井俊範氏が就任しています。AMROは、その役割から「アジア版IMF」と呼ばれており、サーベイランス機能の強化に貢献しています。

設立までの経緯

世界金融危機後の2009年、ASEAN+3特別財務大臣会合において、マクロ経済調査事務所の設立が必要との認識で一致しました。2011年4月にシンガポールで一般国内法人として『ASEAN＋3マクロ経済調査事務所』が設立されました。しかし、一部のメンバー国や国際機関から情報提供への懸念が示されたため、協定の作成交渉が開始され、2012年5月に基本合意に至りました。

2014年10月に『ASEAN＋３マクロ経済調査事務局』設立協定書への正式署名が行われ、東南アジア諸国連合（ASEAN）構成国、日本、中国、韓国、香港が署名しました。2015年12月11日、協定発効に必要な批准書の寄託が完了し、締約国はASEAN全加盟国を含む15カ国となりました。

二国間通貨スワップ協定との違い

CMIMは地域金融セーフティーネットであり、多国間通貨スワップ協定の一つです。二国間通貨スワップよりも大きなシステムであるため、より大規模な通貨危機への対応が期待されます。しかし、一定枠以上の利用にはIMF融資が必要であり、IMFによるコンディショニング（財政規律等の制約）を受ける必要があります。このため、二国間通貨スワップ協定を同時に結んでいる国は、そちらを優先する傾向があります。この点がCMIMの利用しづらさとして改善が提案されています。

注意点

「チェンマイ・イニシアティブ下での二国間通貨スワップ終了」は、「チェンマイ・イニシアティブの終了」ではないことに注意が必要です。

関連情報

アジア通貨基金のその後
東アジア共同体における地域金融と通貨の統合
アジア債券市場
アジア開発銀行
新開発銀行
アジアインフラ投資銀行
日韓通貨スワップ
マニラ・フレームワーク

外部リンク

チェンマイ・イニシアティブ（CMI） 財務省
海外中銀との協力 - 通貨スワップ取極等 日本銀行
* ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス（AMRO）

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