チェンワルフ (ウェセックス王)

チェンワルフ（Cenwalh）

7世紀中頃の西サクソン族、のちのウェセックス王国の王（在位：？ - 674年?）。古英語ではCENVVALH CYNEGILSING VVESTSEAXNA CYNING、ラテン語ではCENVVALH REX SAXONVM OCCIDENTALIVMと記されます。彼の治世は、かつてゲウィセと呼ばれた部族集団が、後のウェセックス王国へと発展していく過渡期にあたる重要な時代でした。彼の名は史料によって表記が一定せず、『Coinwalch』、『Coenwalh』、『Cenwal』、『Kenwal』など様々な綴りが見られます。

出自

歴史家ベーダ・ヴェネラビリスはチェンワルフの父を王キュネイルスとしていますが、正確な血縁関係は不確かです。『アングロサクソン年代記』の系譜にも一貫性がありません。当時の西サクソン族の支配領域は後世のウェセックス王国とは異なり、ベーダは「ゲウィセ」を「西サクソン族」として用いています。

年代記には、チェンワルフが親族クスレッドに土地を与えた記録と、同時期に同名のクスレッドが没した記録があり、このクスレッドがキュネイルスの孫である可能性から、先代クウィチェルム王がキュネイルスの息子ではない可能性も示唆されています。

即位と亡命

彼の治世で特筆されるのは、父キュネイルス王が受けた洗礼を拒否し、異教徒のまま王位に就いたこと、そして当時の強国マーシア王国の攻撃を受け、国外への亡命を余儀なくされた点です。これらの出来事はベーダの著作に記されています。

国を追われたチェンワルフは、亡命先のイースト・アングリア王国でキリスト教の洗礼を受けたと伝えられています。亡命期間はベーダによれば3年間とされますが、正確な時期は不明です。マーシア王ペンダが655年に戦死した後、チェンワルフは帰還しますが、その時期についても諸説あります。

領土の変遷と教会との関係

チェンワルフが帰還した際、首都ドルチェスターの司教はフランク人のアイルベルトでしたが、彼は南方のウィンチェスターに新たな司教区を設立しました。ウィンチェスターは後にウェセックス王国の中心部となります。一方で、ドルチェスターはマーシアの影響下に置かれました。マーシア王ウルフヘレは南方に勢力を伸ばしましたが、674年にノーサンブリア王に敗れ、イングランド南部におけるマーシアの影響力は後退しました。

北のマーシアには苦戦することもあったチェンワルフですが、658年には西方のブリトン人に勝利しています。しかし、その規模は不明です。彼は必ずしもブリトン人に敵対的であったわけではないようです。

665年から668年にかけて、チェンワルフはドルチェスター司教ウィニと対立し、ウィニはマーシア王ウルフヘレのもとへ亡命しました。これは、ウェセックス北部におけるマーシアの影響力を示唆します。これにより、ドルチェスター司教はマーシア系の人物に代わり、テムズ川上流域はマーシアの支配下に入りました。この結果、西サクソン王国の中心は新都ウィンチェスターへと移り、後のウェセックス王国の基盤が築かれます。

統治と死後

チェンワルフが単独王であったかは不明で、複数の王による共同統治であった可能性も指摘されています。後のウェセックス王キャドワラの父チェンベルートも同時期に王であった可能性が考えられます。

チェンワルフの没年は670年代、おそらく674年、一説には676年とされます。死後、未亡人のサクスブルフが権力を握りました。

彼の子供で王となった者はおらず、詳細も不明です。後のウェセックス王チェントウィネは彼の兄弟説がありますが、疑問視されています。しかし、9世紀のマーシアやケントの王が、チェンワルフの子孫である可能性も指摘されています。彼らが祖と称したペンダの兄弟「コエンワルフ」が、ウェセックス王チェンワルフ本人であった可能性も示唆されています。

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