チオリン酸
チオリン酸（Thiophosphate）は、リン酸分子中の酸素原子が一つ以上硫黄原子に置換された構造を持つ化合物、またはそれに対応する陰イオンの総称です。ホスホロチオエート（Phosophorothioate）やチオホスフェートとも呼ばれます。これらの化合物やイオンは、中心に位置する5価のリン原子に硫黄原子と酸素原子が結合し、全体として四面体構造を形成しています。無機チオリン酸イオンは、一般に [PS₄₋ₓOₓ]³⁻（ここで x = 0, 1, 2, 3）という化学式で表されます。
有機チオリン酸化合物は、リン酸エステルなどに含まれる酸素が硫黄に置き換わった構造を持つ有機リン化合物の一種です。無機チオリン酸化物と同様に、中心のリン原子に炭素を含む有機基と硫黄、酸素が結合しています。多くは一般式 (RO)₃₋ₓRₓPS で表される構造を持ちますが、酸素ではなく硫黄と炭素が直接結合した形（ROをRSで置換したもの）も含まれます。
これらの化合物の中には、その生物活性から殺虫剤として広く利用されているものや、医薬品として開発されているもの、あるいは潤滑油の性能を向上させる添加剤として使われているものなど、多様な応用例が見られます。
有機チオリン酸化合物の重要な例として、オリゴヌクレオチドホスホロチオエート（OPS）があります。これは、DNAやRNAを構成するオリゴヌクレオチドのリン酸骨格中の非架橋酸素原子の一つが硫黄原子に置換された構造を持つ人工的な核酸誘導体です。この硫黄置換により、生体内で核酸を分解する酵素（ヌクレアーゼ）に対する安定性が向上し、薬物としての利用が可能になります。
OPSは特に、特定のメッセンジャーRNA（mRNA）の働きを阻害することで病気の原因となるタンパク質の合成を抑制するアンチセンス医薬の基盤技術となっています。これまでに、サイトメガロウイルス網膜炎治療薬のホミビルセン（Fomivirsen、商品名：Vitravene）、慢性リンパ性白血病治療薬として研究されたオブリメルセン（Oblimersen）、クローン病治療薬として研究されたアリカホルセン（Alicaforsen）、家族性高コレステロール血症治療薬のミポメルセン（Mipomersen、商品名：Kynamro）など、様々なアンチセンス医薬が開発されています。
無機チオ[リン]]酸は、主に [PS₄₋ₓOₓ]³⁻ の形の陰イオンとして存在します。これらの3価の陰イオンは非常に強い塩基性を示し、水中では極めて高いpH条件下でなければ安定に存在できません。通常、これらのイオンは溶液中でプロトン（水素イオン）を受け取り、[HnPS₄₋ₓOₓ⁻ のような形で存在します。以下に、いくつかの代表的なチオリン酸イオンについて詳述します。
一チオリン酸イオンは、リン酸イオン（[PO₄]³⁻）の一つの酸素原子が硫黄原子に置換されたもので、化学式は [PO₃S]³⁻ です。このイオンはC₃v対称性を持っています。代表的な塩としては、一チオリン酸ナトリウム（Na₃PO₃S）が知られています。
生化学研究においては、リン酸が生体内で関与する様々な反応を調べるためのアナログとして、特に一チオリン酸のエステル体などが利用されます。例えば、これらのエステル類は、遺伝情報の転写メカニズムを解析する際や、化学反応における原子や分子の動き（置換干渉解析）を調べるための試薬として用いられます。「一チオリン酸」という用語が、(CH₃O)₂POS⁻ のようなエステル構造を指す場合もあります。
二チオリン酸イオンは、リン酸イオンの二つの酸素原子が硫黄原子に置換されたもので、化学式は [PO₂S₂]³⁻ です。このイオンはC₂v対称性を持っています。二チオリン酸ナトリウム（Na₃PO₂S₂）は、五硫化二リン（P₂S₅）を水酸化ナトリウム（NaOH）水溶液と反応させることで、無色透明の固体として得られます。反応式は以下の通りです。
P₂S₅ + 6NaOH → 2Na₃PO₂S₂ + H₂S + 2H₂O
単体の二チオリン酸（H₃PO₂S₂）は、二チオリン酸バリウム（Ba₃(PO₂S₂)₂）と硫酸（H₂SO₄）を反応させることで遊離酸として単離することができます。反応式は以下の通りです。
Ba₃(PO₂S₂)₂ + 3H₂SO₄ → 3BaSO₄ + 2H₃PO₂S₂
二チオリン酸ナトリウムは、水溶液中である程度安定ですが、加水分解によって一チオリン酸塩と硫化水素（H₂S）を生じることが知られています。反応式は以下の通りです。
Na₃PO₂S₂ + 2H₂O → Na₃PO₃S + H₂S
三チオリン酸イオンは [POS₃]³⁻ という化学式で表され、C₃v対称性を持っています。これはリン酸イオンの三つの酸素原子が硫黄に置換されたものです。一方、四チオリン酸イオンは [PS₄]³⁻ という化学式で表され、これはリン酸イオンの全ての酸素原子が硫黄に置換されたものに相当します。このイオンは高い対称性を持つ正四面体構造（Td対称性）を取ります。
これらのチオリン酸イオンを含む化合物も合成されており、それぞれの構造や性質に関する研究が行われています。
有機チオリン酸化合物
有機チオリン酸化合物は、リン酸エステルなどに含まれる酸素が硫黄に置き換わった構造を持つ有機リン化合物の一種です。無機チオリン酸化物と同様に、中心のリン原子に炭素を含む有機基と硫黄、酸素が結合しています。多くは一般式 (RO)₃₋ₓRₓPS で表される構造を持ちますが、酸素ではなく硫黄と炭素が直接結合した形（ROをRSで置換したもの）も含まれます。
これらの化合物の中には、その生物活性から殺虫剤として広く利用されているものや、医薬品として開発されているもの、あるいは潤滑油の性能を向上させる添加剤として使われているものなど、多様な応用例が見られます。
オリゴヌクレオチドホスホロチオエート (OPS)
有機チオリン酸化合物の重要な例として、オリゴヌクレオチドホスホロチオエート（OPS）があります。これは、DNAやRNAを構成するオリゴヌクレオチドのリン酸骨格中の非架橋酸素原子の一つが硫黄原子に置換された構造を持つ人工的な核酸誘導体です。この硫黄置換により、生体内で核酸を分解する酵素（ヌクレアーゼ）に対する安定性が向上し、薬物としての利用が可能になります。
OPSは特に、特定のメッセンジャーRNA（mRNA）の働きを阻害することで病気の原因となるタンパク質の合成を抑制するアンチセンス医薬の基盤技術となっています。これまでに、サイトメガロウイルス網膜炎治療薬のホミビルセン（Fomivirsen、商品名：Vitravene）、慢性リンパ性白血病治療薬として研究されたオブリメルセン（Oblimersen）、クローン病治療薬として研究されたアリカホルセン（Alicaforsen）、家族性高コレステロール血症治療薬のミポメルセン（Mipomersen、商品名：Kynamro）など、様々なアンチセンス医薬が開発されています。
無機チオリン酸化合物
無機チオ[リン]]酸は、主に [PS₄₋ₓOₓ]³⁻ の形の陰イオンとして存在します。これらの3価の陰イオンは非常に強い塩基性を示し、水中では極めて高いpH条件下でなければ安定に存在できません。通常、これらのイオンは溶液中でプロトン（水素イオン）を受け取り、[HnPS₄₋ₓOₓ⁻ のような形で存在します。以下に、いくつかの代表的なチオリン酸イオンについて詳述します。
一チオリン酸塩
一チオリン酸イオンは、リン酸イオン（[PO₄]³⁻）の一つの酸素原子が硫黄原子に置換されたもので、化学式は [PO₃S]³⁻ です。このイオンはC₃v対称性を持っています。代表的な塩としては、一チオリン酸ナトリウム（Na₃PO₃S）が知られています。
生化学研究においては、リン酸が生体内で関与する様々な反応を調べるためのアナログとして、特に一チオリン酸のエステル体などが利用されます。例えば、これらのエステル類は、遺伝情報の転写メカニズムを解析する際や、化学反応における原子や分子の動き（置換干渉解析）を調べるための試薬として用いられます。「一チオリン酸」という用語が、(CH₃O)₂POS⁻ のようなエステル構造を指す場合もあります。
二チオリン酸塩
二チオリン酸イオンは、リン酸イオンの二つの酸素原子が硫黄原子に置換されたもので、化学式は [PO₂S₂]³⁻ です。このイオンはC₂v対称性を持っています。二チオリン酸ナトリウム（Na₃PO₂S₂）は、五硫化二リン（P₂S₅）を水酸化ナトリウム（NaOH）水溶液と反応させることで、無色透明の固体として得られます。反応式は以下の通りです。
P₂S₅ + 6NaOH → 2Na₃PO₂S₂ + H₂S + 2H₂O
単体の二チオリン酸（H₃PO₂S₂）は、二チオリン酸バリウム（Ba₃(PO₂S₂)₂）と硫酸（H₂SO₄）を反応させることで遊離酸として単離することができます。反応式は以下の通りです。
Ba₃(PO₂S₂)₂ + 3H₂SO₄ → 3BaSO₄ + 2H₃PO₂S₂
二チオリン酸ナトリウムは、水溶液中である程度安定ですが、加水分解によって一チオリン酸塩と硫化水素（H₂S）を生じることが知られています。反応式は以下の通りです。
Na₃PO₂S₂ + 2H₂O → Na₃PO₃S + H₂S
三チオリン酸塩および四チオリン酸塩
三チオリン酸イオンは [POS₃]³⁻ という化学式で表され、C₃v対称性を持っています。これはリン酸イオンの三つの酸素原子が硫黄に置換されたものです。一方、四チオリン酸イオンは [PS₄]³⁻ という化学式で表され、これはリン酸イオンの全ての酸素原子が硫黄に置換されたものに相当します。このイオンは高い対称性を持つ正四面体構造（Td対称性）を取ります。
これらのチオリン酸イオンを含む化合物も合成されており、それぞれの構造や性質に関する研究が行われています。
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