チベット十三万戸

チベット十三万戸の概念とその歴史

チベット十三万戸（チベットじゅうさんばんこ）は、チベット語で「プー・ティコル・チュクスム」と呼ばれ、中部チベットあるいはチベット全土を指す地理的な区分を表します。この名称はモンゴル帝国の時代に由来し、特に有力な領主が「万戸制」に基づき「ティ・プン」と呼ばれる立場に就いたことから派生したものと考えられています。ただし「チベット十三万戸」という言葉は、当時の資料には見当たらず、後の時代に定着した名前だと広く認識されています。

歴史的背景

モンゴル帝国が13世紀初頭に急速にその勢力を拡大する中、1230年代にはチベットにも侵攻が始まり、最終的にモンゴル帝国はチベット高原を支配することになります。この過程で、征服した地域の人口を調査し、組織化する慣行が取られました。チベットにおいても、領主たちは万戸（チベット語でティコル）として再編され、モンゴルの王たちによって分配されることとなりました。この結果、地域の権力構造が変化し、チベットでは複数の宗教派閥とモンゴルの権力者との間での「施主・帰依処関係」が形成されました。

1260年代以降、クビライ・カアンの台頭に伴い、サキャ派の勢力が急増し、政治的にも大きな影響力を持つようになります。特に、サキャ派の長であるパクパは帝師に任命され、ここからサキャパ政権が成立しました。このことにより、ティコルの権力はポンチェン（俗書の長）によって支配されるようになります。

元代と明代の文献

チベットにおける万戸府の記述は、中国の史書『元史』にも見られ、そこではチベットの仏教僧侶や信者を統治する職務を担う宣政院について触れられています。しかし、その記録における万戸の数は11であり、チベット文献の内容と一致しないことが指摘されています。一方、チベット語の史料における「チベット十三万戸」の表記が初めて見られるのは、長い年代を経て編纂された『漢蔵史集』であり、この記載は13万戸という数値が恣意的に操作されている可能性を示唆しています。

1368年に明朝が成立すると、洪武帝はチベットに対して直接的な軍事支配を行わず、官職の再認識を通じて自身の権威を示しました。1373年には、明朝朝廷に訪れたナムギェン・パルサンポに対し、万戸府の設置を認めたことが記録されています。この文献で初めて「チベットの十三万戸」という言葉が登場しました。これにより、後の時代に「チベット十三万戸」という概念が定着した背景が明らかになります。

後世の理解

後には、「チベット十三万戸」という名前が中央チベットの別称として用いられるようになり、十三の万戸の所在地として次のような地名が挙げられました：ウー、ツァン、カムに関連する地域です。このように、「プー・ティコル・チュクスム」という言葉は、モンゴル帝国期の万戸制から派生しているとともに、チベット全域を13のカテゴリーに分ける意味にも使われるようになりました。これが、現在に至るまでのチベットの地理的理解に影響を与えています。

まとめ

チベット十三万戸は、チベットの地理的区分を理解する上で重要な概念であり、モンゴル帝国やその後の歴史的影響が色濃く関わっています。地域限界や文化的背景を理解する手助けとなるこの名前は、チベットの多様な歴史と遺産を示しています。

もう一度検索