チャプルテペクの戦い

チャプルテペクの戦い：メキシコシティ陥落への序章

1847年9月、米墨戦争はクライマックスを迎えようとしていました。アメリカ軍はメキシコシティ攻略を目指し、その西側にそびえ立つチャプルテペク城を制圧するという重要な課題に直面していました。チャプルテペク城は標高60メートルほどの丘の上に築かれた要塞で、メキシコ軍士官学校としても利用されており、戦略的に重要な拠点でした。

戦いの背景

9月8日、アメリカ軍はモリノ・デル・レイの戦いでメキシコ軍を撃破し、チャプルテペク城の麓まで迫っていました。しかし、アメリカ軍司令官ウィンフィールド・スコット将軍は、当初南からの攻撃を検討していました。しかし、最終的には西からのチャプルテペク城への直接攻撃を決定しました。この決断は、若い将校による力強い主張が影響を与えたと言われています。

一方、メキシコ軍はアントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナ将軍の指揮下にありました。サンタ・アナはチャプルテペク城の重要性を認識し、防衛に兵士約800名、そして200名にも及ぶ士官候補生を配置していました。しかし、アメリカ軍の数的優勢は圧倒的でした。

激化する戦闘

9月12日夜明け、アメリカ軍はチャプルテペク城への砲撃を開始しました。激しい砲撃は翌日まで続き、アメリカ軍は午前8時に総攻撃を開始しました。アメリカ軍は複数の部隊を投入し、城への攻撃を展開しました。特に、城の南東への攻撃においては、多くの兵士が梯子を使って城壁を登攀し、激しい肉弾戦が展開されました。

アメリカ軍は城壁に突入すると、メキシコ軍は激しい抵抗を見せましたが、数的不利を覆すことはできませんでした。南西からの攻撃も成功し、アメリカ軍は城を制圧しました。メキシコ軍はチャプルテペク城からメキシコシティへと撤退を始めました。

ロス・ニーニョス・エロエス：子供の英雄たち

この戦いで特に記憶されるのが、「ロス・ニーニョス・エロエス（子供の英雄たち）」と呼ばれる6人の士官候補生の物語です。彼らは撤退命令を拒否し、最後まで戦い抜いて戦死しました。中でも、フアン・エスクティアはメキシコ国旗に身を包んで城から飛び降りたという逸話は、メキシコ人の心に深く刻まれています。彼らの勇敢な行動は、現在もメキシコで称えられています。

聖パトリック大隊の悲劇

この戦いでは、アメリカ軍からメキシコ軍に寝返った「聖パトリック大隊」の兵士30名が処刑されました。彼らは、アメリカ軍の捕虜としてチャプルテペク城を見据える場所で、メキシコ国旗が降ろされアメリカ国旗が掲げられるまさにその時に処刑されました。

メキシコシティへの進撃

チャプルテペク城を制圧したアメリカ軍は、メキシコシティへの進撃を開始しました。ベレン門とサン・コスメ門への攻撃が展開され、アメリカ軍は激しい抵抗を受けながらも、両門を突破し、メキシコシティ中心部へと進撃しました。

戦いの結果と遺産

チャプルテペクの戦いはアメリカ軍の勝利に終わりました。アメリカ軍は大きな損害を被りましたが、メキシコシティ陥落への道を切り開きました。この戦いは、米墨戦争における重要な転換点であり、メキシコの歴史に深く刻まれた出来事となりました。「ロス・ニーニョス・エロエス」の物語、そして聖パトリック大隊の悲劇は、この戦いの複雑さと悲劇性を象徴するものです。アメリカ海兵隊は、この戦いで多くの犠牲を払ったことを記念し、制服に赤い縞を入れています。また、海兵隊讃歌にもこの戦いが歌われています。チャプルテペクの戦いは、戦争の悲劇と英雄的行為が複雑に絡み合った歴史的事件として、今もなお人々の記憶に刻まれています。

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