チャートチャーイ・チュンハワン

チャートチャーイ・チュンハワンの生涯と政治

チャートチャーイ・チュンハワン（1922年4月5日 - 1998年5月6日）は、タイ王国の軍人、外交官、そして政治家として、激動の時代を駆け抜けた人物です。陸軍大将であり、第23代首相を務めました。彼の政治キャリアは、インフラ整備と地方を重視した経済政策による成長をもたらした一方で、汚職の蔓延と軍との対立を招き、最終的にはクーデターによって政権を追われるという劇的なものでした。

軍人から外交官へ

チャートチャーイの父は、1947年のタイ・クーデターで中心的な役割を果たした陸軍元帥ピン・チュンハワンです。華僑の血を引く家系に生まれ、自身も「華僑三世」と語っています。バンコクの名門校で教育を受けた後、陸軍士官学校に進み、1940年に少尉に任官しました。第二次世界大戦中は、騎兵大隊の一員としてビルマ侵攻に参加し、戦後はアメリカで訓練を受けました。

父ピンの影響力が強かった時代には、ワシントンD.C.駐在武官を務めました。しかし、1957年のクーデターで父が失脚すると、チャートチャーイも軍を追われ、外交官へと転身します。アルゼンチン大使を皮切りに、オーストリア、スイス、トルコ、ユーゴスラビア、バチカン、そして国連大使を歴任し、この間に中国や中東との関係を築きました。これらの経験は、後の首相としての活動に大いに役立つことになります。

1972年に帰国後、外務省の政治部長に就任し、政界への足がかりを築きました。

政界への道

1972年、副外務大臣として政界入りを果たしました。同年、パレスチナのテロ組織による人質事件が発生すると、テロリストとの交渉役を務め、人質の解放と引き換えに自らが身代わりとなるという大胆な行動で注目を集めました。この事件での活躍は、彼の勇気と交渉能力を示すものでした。

血の日曜日事件後も外務次官を務め、1973年には国防相とともに北京を訪問し、中国との外交関係樹立に貢献しました。これは、タイ政府高官として初めての北京訪問であり、両国間の貿易障壁を取り除くことを約束しました。その後、タイ・中国友好協会を設立し、両国関係の発展に尽力しました。

1974年には、タイ国民党を設立し、党首に就任。1975年の総選挙で国会議員に選出され、外務大臣として入閣しました。1976年のクーデターで政権が倒れるまで産業大臣を務めました。その後、一時的に政界を離れましたが、1980年から1983年まで再び産業大臣として活躍しました。1986年にはタイ国民党の党首に返り咲き、副首相として政権に復帰しました。

首相就任

1988年、チャートチャーイはついに首相の座に就きます。当初はプレーム首相の続投を支持していましたが、最終的に自身が首相に就任しました。彼の首相としての任期は、インドシナを「戦場から市場へ」変えるというスローガンに象徴されるように、外交面では共産主義国との関係改善、内政面ではインフラ整備に力を入れました。

特に、ベトナム、カンボジア、ラオスとの関係改善に尽力し、これらの国々との国際貿易を促進しました。また、タイ国内では、電気通信ネットワークの拡大、東部臨海開発、バンコクの道路網整備など、多くのインフラプロジェクトを開始しました。これらの政策により、タイ経済は年間最大13％という驚異的な成長を遂げました。

しかし、その一方で、チャートチャーイ政権は深刻な汚職問題に直面しました。連立政党の政治家たちが公的資金をめぐって露骨な争いを繰り広げ、その様子は「ビュッフェ内閣」と揶揄されました。チャートチャーイ自身もこれらの問題を黙認し続けたため、国民の不満が高まりました。

さらに、1989年の台風被害での対応の遅れや、地方ビジネスマンを優遇する政策は、伝統的なエリート層からの反発を招きました。また、重要な政策決定を「バーン・ピッサロヌーク」と呼ばれる首相顧問団に任せたことも、軍の不信感を募らせる原因となりました。

失脚

軍との関係は、表面上は良好でしたが、次第に緊張が高まっていました。1990年に入ると、軍内部の勢力争いが激化し、チャワリット国防相の辞任や、チャルーム首相府大臣の言動を巡って、軍との対立が深まりました。チャートチャーイは、軍の主流派と対立する人物を政府に取り込んだため、軍の不信感は頂点に達しました。

1991年2月23日、ついに軍はクーデターを決行し、チャートチャーイは首相の座を追われました。拘束されたチャートチャーイは、不正蓄財の疑いを追及され、一時的にイギリスへ亡命しました。

その後、軍政が頓挫すると、1992年に帰国し、国家開発党を立ち上げましたが、政界での影響力を取り戻すことはありませんでした。1998年、肝臓がんで死去し、波乱に満ちた生涯を閉じました。

人物像

チャートチャーイは、葉巻、高級ワイン、ハーレーダビッドソンを愛するプレイボーイとしても知られていました。老年期になっても、スポーツやパーティーを楽しむなど、その奔放なライフスタイルは、多くの人々の関心を引きました。

彼の政治家としての功績は、経済成長を促したことですが、汚職問題を放置したことや軍との対立を招いたことは、大きな汚点として残りました。それでも、彼の外交手腕や人柄は、多くの人々に記憶されています。

家族

チャートチャーイの家族は、軍人や政治家が多く、タイの政界や社会に大きな影響を与えました。父ピン・チュンハワンをはじめ、姉妹も有力者と結婚し、その子孫たちも政界や財界で活躍しています。

栄典

チャートチャーイは、数々の勲章を受章しています。国内では、勲特等白象勲章やボーイスカウト特別勲章を授与され、海外ではマレーシア王冠忠誠勲章グランド・コマンダーを受章しました。

チャートチャーイ・チュンハワンは、タイの歴史において、重要な役割を果たした人物の一人です。その功績と過ちは、現代のタイ社会に多くの教訓を残しています。

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