チャールズ・ペダーセン

チャールズ・ジョン・ペダーセン

チャールズ・ジョン・ペダーセン（日本名：安井 良男）は、1904年から1989年にかけて活躍したアメリカ合衆国の化学者です。環状分子であるクラウンエーテルの発見とそのユニークな性質の解明は、後に超分子化学と呼ばれる新しい研究分野の礎を築き、この業績により1987年にノーベル化学賞を受賞しました。

彼の出自は国際的です。1904年10月3日、大韓帝国の慶尚南道東萊郡（現在の韓国釜山周辺）で生を受けました。父はノルウェー人の航海技師ブレーデ・ペーデシェン、母は福岡県出身で豆や蚕の貿易に関わっていた日本人の安井タキノです。父が当時、釜山税関で勤務していたことが、彼の出生地に影響しています。

8歳になるまで朝鮮半島で暮らし、その後日本の長崎県へ移り住みました。10歳で神奈川県横浜市に転居し、外国人子弟向けのインターナショナルスクールであるセント・ジョセフ・インターナショナル・カレッジで学びました。

化学者になることを志し、1922年に単身アメリカ合衆国に渡ります。デイトン大学で化学の学士号を取得した後、マサチューセッツ工科大学（MIT）に進み、修士課程を修了しました。MITの教授陣からは博士課程に進むことを強く勧められましたが、ペダーセンは父への経済的負担を考慮し、実業界でのキャリアを歩むことを選びました。ノーベル化学賞受賞者としては非常に珍しい、博士号を持たない研究者となった背景には、こうした彼の家族への思いがありました。

1927年、大手化学メーカーであるデュポン社に入社し、研究員としての道を歩み始めました。彼は生涯の大部分をデュポン社での研究に捧げ、定年退職する65歳までの実に42年間にわたって同社に勤務しました。この長い研究活動の中で、彼は25本の学術論文と65件の特許を取得するなど、多岐にわたる成果を残しました。

彼の最大の業績は、1967年に発表された二つの論文で詳細に記されています。この論文の中で、彼は環状エーテル化合物である「クラウンエーテル」を発見し、その分子構造が金属イオンなどの荷電したイオンを内側に安定して包み込む、すなわち「捕捉する」という特異な性質を持つことを明らかにしました。この発見は化学の世界に新たな視点をもたらし、分子同士が弱い力で組み合わさる「超分子」に関する研究、すなわち超分子化学という新しい分野の幕開けを告げるものとなりました。彼の1967年の論文は、現代化学史上の金字塔の一つとして今日でも高く評価されています。

クラウンエーテルの発見を受けて、この分野の研究は急速に進展しました。特に、ドナルド・クラムとジャン＝マリー・レーンは、ペダーセンの研究をさらに発展させ、超分子化学の体系化に貢献しました。これらの功績が認められ、ペダーセンはクラム、レーンと共に、1987年にノーベル化学賞を共同受賞しました。

ノーベル賞受賞の数年前、1983年に骨髄腫と診断され、その体は急速に衰えていきました。しかし、1987年のノーベル賞授賞式には、病身を押してストックホルムまで渡航し、自ら栄誉を受けました。ノーベル賞受賞からわずか二年後の1989年10月26日、85歳でこの世を去りました。

備考として、彼の出自に関連する興味深い点があります。ノーベル委員会の公式サイトでは、受賞者を出生地で分類する際、現在の行政区分に基づき、釜山出身であるペダーセンを韓国出身と表示することがあります。また、彼のノーベル化学賞受賞は、日系アメリカ人としては初の快挙であり、アジア系アメリカ人、および日本にルーツを持つ人物としては、福井謙一に次ぐ二人目のノーベル化学賞受賞事例となりました。

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