チャールダーシュ

チャールダーシュ（Csárdás）

チャールダーシュは、ハンガリーが誇る特徴的な音楽および舞踊のスタイルです。その名は、ハンガリー語で「酒場」を意味する「チャールダ（csárda）」に由来しており、スロバキア語では「čardáš」と表記されます。単に地名や場所に由来するだけでなく、ハンガリー音楽に多大な貢献をした作曲家ロージャヴェルジ・マールクが作曲した特定の楽曲名が、このジャンル全体の名称として広く認識されるきっかけになったと伝えられています。

歴史的背景

チャールダーシュの起源は、かつて兵士の募集のために酒場（チャールダ）で行われたヴェルブンクやヴェルブンコシュという踊りに遡ります。これらの踊りは、当初は兵士たちによって踊られていましたが、次第に農民たちの影響も受けつつ、芸術的な要素を深めていきました。19世紀に入ると、ロージャヴェルジをはじめとする作曲家たちの手によって、洗練されたチャールダーシュの音楽と踊りの形式が確立されていきます。この発展過程は、ヴェルブンコシュが単に農民によって改変されたという単純なものではなく、より複雑な文化的交流の中で形成された結果と言えます。

19世紀中頃には、チャールダーシュはウィーンをはじめとするヨーロッパ主要都市で驚異的な流行を遂げました。その人気は凄まじく、ウィーンの宮廷が一時的にチャールダーシュの演奏や踊りを禁止する法律を発布したという逸話が残っているほどです。この時代に国内外の多くの作曲家がチャールダーシュを作曲し、その影響はオペレッタやヴァイオリンのための楽曲など、様々なジャンルに見られます。

そして近年、チャールダーシュの文化的価値が再評価され、2024年にはハンガリーの重要な文化遺産としてユネスコの無形文化遺産に登録されました。

音楽的特徴

チャールダーシュの最も顕著な音楽的特徴は、対照的な二つの部分から構成される点です。一つは「ラッシュー（lassú）」と呼ばれる、非常にゆっくりとしたテンポの部分で、しばしば深い哀愁や悲しみを帯びて演奏されます。もう一つは「フリッシュ（friss）」と呼ばれる急速なテンポの部分で、情熱的で活気に満ちた、華やかな雰囲気を持っています。この緩急の劇的な対比が、チャールダーシュに独特の感情的な深みと興奮をもたらしています。

多くの場合、これらの異なるテンポの部分は、二つあるいは三つ程度の異なる民謡旋律を組み合わせて構成されます。これにより、楽曲全体に多様な表情と変化が生まれます。この構成は、ハンガリーの他の伝統音楽にも見られる共通の特徴ですが、チャールダーシュにおいては特にその緩急の差が強調される傾向があります。

主な楽曲

チャールダーシュとして特に有名な楽曲には、イタリアの作曲家ヴィットーリオ・モンティによるヴァイオリン曲『チャールダーシュ』や、ヨハン・シュトラウス2世のオペラ『騎士パズマン』の中のチャールダーシュなどがあります。

チャールダーシュは、その情熱的なメロディーと劇的なテンポの変化、そして豊かな歴史的背景を通じて、ハンガリーの文化と精神を今に伝える重要な芸術形式であり続けています。

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