チー・ユン

チー・ユン（Chee-Yun）は、1970年に大韓民国の首都ソウル特別市に生まれた国際的なヴァイオリニストです。本名はキム・チーユン（Kim Chee-Yun）。幼少期からヴァイオリンの才能を開花させ、若くして渡米し、輝かしいキャリアを築き上げました。

彼女がヴァイオリンを始めたのは6歳の時。わずか8歳でコリアン・タイムズ・コンクールに優勝するなど、その才能は母国で早くから認められていました。大きな転機となったのは13歳での渡米です。クラシック音楽の本場であるニューヨークへ移住し、名門ジュリアード音楽院で学ぶことになります。ここでは、ヴァイオリン教育界の伝説的存在であるドロシー・ディレイ女史、そしてフェリックス・ガリミール氏という二人の偉大な師に師事し、演奏家としての基盤を確立しました。

ニューヨークでの研鑽は、すぐに華々しい演奏活動へと結びつきます。13歳で早くもニューヨーク・フィルハーモニックとの共演を果たし、その才能を広く知らしめました。さらに15歳の時には、ニューヨーク・ストリング・オーケストラのソリストとして、アメリカを代表するクラシック音楽の殿堂であるカーネギー・ホールとケネディ・センターの舞台に立っています。ジュリアード音楽院内の協奏曲コンクールでは1988年に優勝。翌1989年にはニューヨークでの本格的なデビューリサイタルを成功させ、批評家からも高い評価を得ました。1993年にはホワイトハウスでの演奏に招かれるなど、アメリカ国内での確固たる地位を確立していきます。

録音活動も活発に行っており、1992年には日本のDENON（日本コロムビア）よりアルバム『ヴォカリーズ〜ヴァイオリン・ショウ・ピース』をリリースし、CDデビューを飾りました。このアルバムは、エルガー、フォーレ、マスネ、サラサーテといった作曲家による情感豊かなヴァイオリン小品集で構成されています。特に、日本の著名なピアニストである江口玲氏とは、以降リリースされる多くのソナタ・アルバムで継続的に共演し、盤石のパートナーシップを築いています。これまでに彼女が発表した録音は多岐にわたり、フォーレ、ドビュッシー、サン＝サーンスによるフランス・ヴァイオリン・ソナタ集、フランクやシマノフスキのソナタ集、メンデルスゾーンやヴュータンのヴァイオリン協奏曲、ラロのスペイン交響曲やサン＝サーンス第3番協奏曲といった主要レパートリーから、ピアソラ作品を含む企画盤まで含まれています。これらのアルバムは、彼女の幅広い音楽性と、作品への深い理解を示しています。

彼女の演奏活動の拠点は主にアメリカ合衆国ですが、ヨーロッパ各地や母国韓国でも定期的にリサイタルを行っており、世界中の聴衆を魅了しています。また、各国の主要な音楽祭にもソリストとして度々招かれ、著名なオーケストラや指揮者との共演を重ねています。日本へも早くから縁があり、1990年に大阪で開催された国際花と緑の博覧会にジュリアード音楽院からの派遣という形で初来日して以来、たびたび公演を行っています。

チー・ユンが現在愛用しているヴァイオリンは、アントニオ・ストラディヴァリによって1708年に製作された名器「Ex-Strauss」です。この楽器から紡ぎ出される豊潤で輝かしい音色は、彼女の情熱的かつ洗練された演奏スタイルを一層引き立てています。以前は、1669年製のフランチェスコ・ルジェーリの楽器を使用していました。

卓越したテクニックと深い音楽性、そして聴衆を惹きつける華やかさを兼ね備えたチー・ユンは、現代ヴァイオリン界を代表する演奏家の一人として、国際的な舞台で活躍を続けています。その活動は、今後のクラシック音楽界においても注目されていくことでしょう。

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