スペイン交響曲

エドゥアール・ラロ：スペイン交響曲 作品21

エドゥアール・ラロによって1874年に作曲された《スペイン交響曲》作品21は、ニ短調で書かれた彼の代表作として広く認識されています。

作品名には「交響曲」と冠されていますが、その内容はヴァイオリン独奏と管弦楽のために書かれた協奏曲、より正確には交響的協奏曲と位置づけるのが適切です。伝統的な交響曲に見られる4つの楽章構成に、「間奏曲」が加えられた5楽章形式をとっています。

この作品は、高名なヴァイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテのために作曲されました。ラロはすでに1872年にサラサーテへヴァイオリン協奏曲第1番ヘ長調を献呈しており、本作はその続編にあたるため、「ヴァイオリン協奏曲第2番」としての性格も持ち合わせています。

本作の大きな特徴は、随所に散りばめられたスペイン由来の旋律やリズムです。これは、当時のフランスで高まりつつあったスペイン趣味の流行を先取りするものであり、特にジョルジュ・ビゼーのオペラ《カルメン》の初演のわずか1ヶ月前に初演されたことは、その時代の潮流を示す興味深い事実です。

また、この作品は、ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーにも影響を与えたと言われています。彼が自身のヴァイオリン協奏曲ニ長調（1878年作曲）を手がける際、ラロの《スペイン交響曲》に見られる豊かな民族色や独自の楽章構成を研究し、参考にしたと伝えられています。

初演は1875年2月、パリにおいて、献呈相手であるサラサーテの独奏、作曲者ラロ自身の指揮によって行われました。しかし、この初演の際、サラサーテは第3楽章「間奏曲」を演奏せずカットしました。この慣習は長く続き、19世紀末から20世紀前半にかけては、演奏会や録音で第3楽章が省略されることが少なくありませんでした。しかし、20世紀後半に入り、ユーディ・メニューインなどの演奏家が全曲カットなしでの演奏や録音に取り組むようになったことを契機に、現在では5楽章全てを演奏するのが一般的なスタイルとなっています。

ラロが自身の作品に「交響曲」という名称を用いた例は、本作の他に《交響曲ト短調》（作品番号なし）がありますが、これは《スペイン交響曲》から13年後の作品であり、独奏楽器を伴わない純粋な管弦楽作品です。《交響曲ト短調》は指揮者トーマス・ビーチャムに愛されたものの、《スペイン交響曲》ほど頻繁に演奏されたり録音されたりする機会は少ない現状です。

編成

本作品は以下の編成で演奏されます。

独奏ヴァイオリン
ピッコロ
フルート2
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット2
トロンボーン3
ティンパニ
小太鼓
トライアングル
ハープ
弦五部（ヴァイオリン第1、第2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽章構成

全5楽章から構成されています。

1. 第1楽章：アレグロ・ノン・トロッポ（Allegro non troppo）
ニ短調、2分の2拍子。ソナタ形式で書かれており、情熱的なヴァイオリン独奏とオーケストラが応酬します。
2. 第2楽章：スケルツァンド：アレグロ・モルト（Scherzando: Allegro molto）
ト長調、8分の3拍子。軽快でリズミカルなスケルツォ楽章です。中間部では叙情的な旋律も現れます。
3. 第3楽章：間奏曲：アレグロ・ノン・トロッポ（Intermezzo: Allegro non troppo）
イ短調、4分の2拍子。中間楽章として挿入されており、独特の哀愁と情熱を帯びた旋律が特徴です。
4. 第4楽章：アンダンテ（Andante）
ニ短調、4分の3拍子。緩やかなテンポで、ヴァイオリン独奏の歌うような旋律が印象的な楽章です。
5. 第5楽章：ロンド：アレグロ（Rondo: Allegro）
ニ長調、8分の6拍子。ロンド形式による終楽章で、スペイン的な舞曲のリズムに乗って華やかに曲を締めくくります。

《スペイン交響曲》は、その独創的な形式と情熱的な音楽によって、今なお多くの人々に愛されるラロの傑作です。

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