ツァイガルニク効果

ツァイガルニク効果について

概要

ツァイガルニク効果（Zeigarnik effect）とは、人間が何か目標を持って行動している際に、その行動が途中で中断されたり、目標が達成されなかったりした場合に、完了した場合に比べてその事柄をより強く記憶し、意識に残りやすい心理現象を指します。達成感が得られずに生じる未完了の状態が、心の中に一種の「未解決の課題」として保持され続け、想起を促すと考えられています。この効果は、提唱者の名前からゼイガルニク効果、ゼイガルニック効果、ゼイガルニク効果とも呼ばれます。

理論的背景：レヴィンの「緊張システム」

この心理現象の根底にあるのは、ドイツのゲシュタルト心理学者であるクルト・レヴィンの提唱した心理学的な考え方です。レヴィンは、人間が何らかの欲求や目標を持つと、心の中に一種の心理的な「緊張システム」が生じると考えました。この緊張は、目標に向かって行動するエネルギーとなり、行動を方向づけます。そして、目標が達成されると、この緊張システムは解放され、心理的な緊張も解消されると説明しました。

発見と実験的証明：ゼイガルニクの研究

レヴィンの門下生であったリトアニア出身で旧ソ連の心理学者、ブリューマ・ゼイガルニクは、師の理論に基づき、未完了の行動が記憶に与える影響について実験的に検証を行いました。彼女は被験者に対し、パズルや簡単な計算問題など複数の課題を与え、そのうちいくつかの課題は途中で意図的に中断させました。すべての課題の実施を終えた後、被験者にどのような課題があったかを思い出してもらう実験を行ったところ、驚くべきことに、途中で中断された（未完了の）課題の方が、最後まで完了できた課題に比べて有意に多く記憶されていることが判明しました。

この実験結果は、「目標が達成されずに緊張が解消されないままであることが、その事柄を記憶に強く定着させ、想起しやすくする」というレヴィンの緊張システム理論を支持するものでした。未完了の課題は心の中で「片付けられていない」状態として残り続け、継続的な注意や意識の対象となりやすいため、記憶からの引き出しも容易になる、と考えられます。

記憶の二面性：行為と知覚

ツァイガルニクと共同研究者らは、興味深い別の実験も行っています。それは、自分自身の行為ではなく、外部の視覚的な対象物、具体的には図形の記憶に関する研究でした。未完成の図形と完成した図形を被験者に見せ、後でどちらをよく覚えていたかを調べたのです。この知覚的な記憶に関する実験では、先ほどの行為の記憶とは逆の結果が得られました。すなわち、未完成の図形よりも、きちんと完成している図形の方が記憶されやすい、という結果になったのです。

結論と示唆

これらの異なる実験結果は、私たちが何かを記憶するプロセスが、対象となるものが「自分自身の行為や課題」であるか、「外部から与えられた視覚的な情報」であるかによって、従う法則性が異なることを示唆しています。自分自身の行為に関する記憶は、目標達成や未達成に伴う内的な心理的緊張（欲求や意図）が大きく影響するのに対し、視覚的な図形などの記憶は、その形態的なまとまり（ゲシュタルトの完成度）などがより重要な要因となる可能性があります。

つまり、ツァイガルニク効果は、私たちが目標に向かって主体的に行動する際の記憶のメカニズムに深く関わる現象であり、未完了の課題が心理的な「引っかかり」となって意識や記憶に影響を与え続けることを示しています。この効果は、学習、仕事、広告など、様々な場面で私たちの認知や行動に影響を与えていると考えられます。例えば、連続ドラマの「次回へ続く」や、ゲームのセーブポイントなども、この効果を利用して視聴者やプレイヤーの関心を引きつけ、継続的なエンゲージメントを促す手法と言えるでしょう。未完了の課題は時にストレスの原因ともなりますが、一方で何かを成し遂げようとするモチベーションの源泉となることもあります。ツァイガルニク効果は、人間の意欲や記憶の複雑さを示す興味深い心理現象なのです。

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