ツィター

ツィター：アルプスの調べを奏でる弦楽器

ツィターは、ドイツ南部、オーストリア、スイスを中心に親しまれている弦楽器です。日本の琴を思わせる形状をしていますが、サイズはよりコンパクトです。約30本の伴奏弦と5～6本のフレット付き旋律弦を備え、親指につけた爪（プレクトラム）で奏でます。その音色は、優しくも力強く、アルプスの山々を思わせるような風情があります。

ツィターは、形状が非常に類似しているソードマンデル（スワルマンダル）としばしば混同されますが、両者の明確な分類は必ずしも確立されていません。中東からヨーロッパにかけて、ツィターに似た楽器が数多く存在し、アラビアやトルコのカーヌーンはその代表的な例と言えるでしょう。

歴史：16世紀からの長い歴史

ツィターという名称は、ギリシャ語のキターラ（Kithara）に由来し、ギターと同じ語源を持ちます。その起源については諸説ありますが、スイスのヴァレー州出身のトーマス・プラッターが16世紀に製作したものが最初期のものとされています。現存する最古のツィターは、1675年にイタリア南チロル地方のブレッサノーネで作られたものです。

アルプスという限られた環境の中で、ツィターは人々の娯楽として家庭に深く根付き、19世紀にはその人気は絶頂期を迎えました。しかし、演奏の難しさから、近年は演奏人口が減少傾向にあるとされています。

ツィターは家庭での娯楽以外にも、修道院などにおける小規模な礼拝行事の伴奏楽器としても使用されてきました。これはチロル地方に限らず、ヨーロッパ各地で見られる慣習でした。オルガンを用いない簡素な礼拝に、ツィターの穏やかな音色は最適であったと言えるでしょう。

ツィターと音楽史：名曲との出会い

ツィターは、多くの作曲家によって作品に取り上げられてきました。中でも、ヨハン・シュトラウス2世のワルツ『ウィーンの森の物語』の冒頭と終結部で演奏されるツィターのソロは、多くの人々に親しまれています。

また、映画『第三の男』のテーマ曲でアントーン・カラスが奏でた楽器としても知られており、この映画をきっかけに、ツィターの独特の響きが世界中に知れ渡ることとなりました。この映画音楽は、ツィターの神秘的でどこか物悲しい音色を際立たせ、作品に独特の雰囲気を与えています。

ツィターの構造と演奏方法

ツィターは、共鳴箱と弦から構成されています。コンパクトなボディに、多数の弦が張られています。これらの弦は、伴奏用の弦と、メロディーを奏でるためのフレット付きの弦に分かれています。奏者は、親指につけたプレクトラムと呼ばれる爪を用いて弦をはじき、独特の音色を生み出します。

ツィターの演奏は、高度な技術と繊細な感性を必要とします。弦の微妙な振動をコントロールし、美しい旋律を奏でるには、長年の鍛錬が欠かせません。

現代におけるツィター

近年は演奏人口の減少が懸念されていますが、ツィターは、その独特の音色と歴史的背景から、依然として多くの愛好家を持ち続けています。音楽会やイベントでの演奏機会も存在し、伝統音楽の継承、そして新たな音楽表現の模索が続けられています。ツィターの魅力は、静けさの中に力強さを感じさせるその音色、そして長い歴史に培われた奥深さにあると言えるでしょう。

関連書籍

軍司貞則 『滅びのチター師』「第三の男」とアントーン・カラス 文春文庫 文藝春秋 ISBN 4-16-757102-1

関連項目

池田成男
惠藤美津子
内藤敏子
文仁親王妃紀子
トミー・テマーソン
ツィター属
日本チター協会

外部リンク

日本チター協会
日本チター楽友会
ハープとチターとオートハープ
チターイスト インターナショナル（英語、ドイツ語）

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