ウィーンの森の物語

ヨハン・シュトラウス2世の傑作ワルツ『ウィーンの森の物語』

ヨハン・シュトラウス2世が1868年に作曲した『ウィーンの森の物語』（原題：Geschichten aus dem Wienerwald, 作品325）は、ウィンナ・ワルツの中でも特に高い人気を誇る作品です。同作曲家の代表作である『美しく青きドナウ』や『皇帝円舞曲』と並び、「三大ワルツ」に数えられることも多く、その名声は世界中に知れ渡っています。

わずか一週間で書き上げられたとされるこのワルツは、1868年6月19日、ウィーンの舞踏場「新世界」で初演されました。初演時の評判はすこぶる良く、オーストリア＝ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世もその魅力を絶賛したと伝えられています。

ウィーンの森とシュトラウス

作品タイトルにもなっている「ウィーンの森」は、ウィーン市民の憩いの場として親しまれてきた緑豊かな地域です。しかし興味深いことに、自然を愛するイメージとは裏腹に、シュトラウス2世自身は自然が大の苦手で、森の中を歩くことすら恐れていたそうです。彼がなぜこのような作品を作曲したのかについては、明確な説明はありませんが、ウィーンの森の美しい風景を音楽で表現することで、人々の心を捉えたことは間違いありません。

複雑な構成と演奏会のためのワルツ

『ウィーンの森の物語』の演奏時間は約11分と、他のワルツに比べて長く、構成も複雑です。これは、単に踊るための音楽というよりも、演奏会で聴くことを前提に作曲されたことを示しています。実際、シュトラウス2世はロシアのパヴロフスク駅での仕事以降、聴くためのワルツにますます関心を寄せるようになっていたとされます。

各楽章の解説

楽曲は、複数の楽章から成る複雑な構成を持っています。

序奏: 非常に長く、いくつかの部分に分かれています。序奏にはツィターが登場しますが、これは南ドイツからオーストリアにかけて用いられる民族楽器です。シュトラウス2世は、この楽器を使用することで、ウィーンとその周辺地域の文化融合を表現したかったのかもしれません。序奏は大きく3つの部分から成り、それぞれ異なる調性とテンポを持ちます。まず、ハ長調のテンポ・ディ・ヴァルス、続いてト長調のピウ・レントでは、第2ワルツの主題が低音楽器で演奏され、鳥のさえずりを思わせるフルートのカデンツァが加わります。そしてモデラートではツィター（もしくはヴァイオリン）の独奏があり、調性が幾度と変化し、徐々にワルツのリズムへと移行していきます。

第1～5ワルツ: 複数のワルツが続き、それぞれ異なる調性と形式を持っています。二部形式や三部形式を用いて、多様な旋律とリズムが展開されます。各ワルツは独立した性格を持つ一方で、全体として有機的に繋がっています。

後奏: 第4ワルツの音型から始まり、第1、第2ワルツの主題が回想されるように演奏されます。最後に、序奏で聴かれたツィターの独奏が再び現れ、急速な結びの音楽で作品は幕を閉じます。

ニューイヤーコンサート

『ウィーンの森の物語』は、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでも頻繁に演奏される人気曲であり、世界中の人々に愛されています。このワルツが持つ優雅さと華麗さは、新年を祝うにふさわしい雰囲気を作り出し、毎年多くの聴衆を魅了しています。

まとめ

『ウィーンの森の物語』は、単なるダンス音楽の枠を超えた、芸術性の高い名曲です。複雑な構成、美しい旋律、そして華麗なオーケストレーションは、聴く者の心を深く捉え、いつまでも記憶に残る感動を与えてくれます。その魅力は、時代を超えて世界中の人々に愛され続けていることからも明らかです。

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