ツェリン・トブゲ

ツェリン・トブゲ（ཚེ་རིང་སྟོབས་རྒྱས།、Tshering Tobgay）は、1965年9月19日にハ県ハ村で生まれた、現代ブータン王国の政治家です。現在、同国首相（2期目）を務めています。日本ではその氏名が「ツェリン・トブゲイ」と表記されることもあります。

彼の経歴は、まず学術分野から始まりました。米国ハーバード大学で公共政策の修士号を取得し、専門知識を深める一方、機械工学に関する知識も有しています。ブータンに帰国後は官僚の道を選び、教育省や労働省で勤務しました。官僚としてのキャリアでは、特に人材開発分野で顕著な実績を上げ、能力開発や組織強化に貢献しました。政界へ転身を決意する直前の2007年には、労働省人材資源局の局長を務めていました。

政治家としてのキャリアは、2007年に国民民主党（PDP）に入党したことから本格的に始まりました。彼は党のコーディネーターとして、翌年の国民議会選挙に向けた準備を進めました。2008年3月に実施された初めての本格的な国民議会選挙で、PDPはブータン調和党（DPT）と対決しましたが、全47議席中わずか2議席に留まるという厳しい敗北を喫しました。この選挙では、当時のPDP党首であったサンゲ・ゲドゥプ氏までもが落選するという事態となりました。しかし、ツェリン・トブゲ氏自身は、自身が立候補したブータン西部のハ県の選挙区で、対立候補を破り当選を果たしました。党が壊滅的な敗北を喫する中で、唯一選挙区で当選を果たしたPDP候補者が彼であったため、サンゲ・ゲドゥプ氏の後任として、ツェリン・トブゲ氏が国民民主党を率いることになりました。

選挙後、2008年4月21日に初召集された国民議会において、彼は国民議会内野党党首に就任しました。このポストは、国内の重要な機関人事に関する協議への参加などが憲法で定められている、極めて重要な役職です。

その後、彼のリーダーシップの下、国民民主党は勢力を回復し、2013年7月の国民議会選挙では大きな躍進を遂げました。全47議席中32議席を獲得し、それまで政権を担っていたDPTから政権を奪還しました。この勝利を受けて、同月27日にツェリン・トブゲ氏はブータン王国の首相に任命され、第1期目の任期が開始しました。

首相として、彼は国内外の課題に取り組みました。2014年6月29日には日本を訪問しています。また、2014年9月時点での中国との関係について、NHKの取材に対し、「両国関係は友好的であり良好である」との見解を示し、さらに両国間で国境画定作業が進行中であることも明らかにしました。

2018年9月15日の国民議会選挙の実施に合わせて、彼は首相を退任しました。しかし、同日に行われた予備選挙において、彼の率いるPDPは、ブータン協同党（31.8％）、ブータン調和党（30.9％）に続く3位（27.4％）という結果に終わり、10月18日の本選挙に進出することができませんでした。これにより、PDPは下野することとなりました。

下野後も党の再建に努め、2023年から2024年にかけて執行された国民議会選挙に再び挑みました。この選挙の本選で、PDPは新党であるブータン縁起党と対決し、全47議席中30議席を獲得する勝利を収めました。この結果、PDPは政権を奪還し、ツェリン・トブゲ氏は2024年1月28日に2期目の首相に就任しました。官僚から政治家へ転身し、厳しい選挙戦を経て再び首相の座に就いた彼のキャリアは、現代ブータンの政治史において特筆すべきものです。

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