ツチブタ

ツチブタ：アフリカの不思議な哺乳類

ツチブタ（Orycteropus afer）は、哺乳綱管歯目ツチブタ科に属する唯一の現生種です。そのユニークな外見と生態から、「生きている化石」とも呼ばれることがあります。アフリカ大陸のサハラ砂漠以南に広く分布しており、その生息域はアンゴラ、エチオピア、ケニア、南アフリカなど、30以上の国々に及びます。

形態

ツチブタは、全長140cmから220cm、体重は40kgから100kgにもなる中型の哺乳類です。体色は淡黄灰色で、頭部や尾はやや白っぽい色をしています。特徴的なのは、長く伸びた吻（鼻先）と、ウサギのように長い耳です。鼻孔は体毛で覆われており、土を掘る際に砂塵が入りにくい構造になっています。

歯は特殊で、門歯や犬歯はなく、セメント質で覆われた臼歯のみを持っています。この臼歯の微細構造が、管歯目（Tubulidentata）という名前の由来です。舌は細長く粘着質で、唾液腺が発達しており、アリやシロアリを捕食するのに適しています。胃の幽門部は筋肉質で、咀嚼しなくても獲物をすりつぶすことができます。また、真獣類としては珍しく、子宮が2つあるという特徴も持っています。

前足には4本、後足には5本の指があり、爪は長くスプーン状で、外縁が鋭くなっています。この爪を使って土を掘り、巣穴を作ったり、獲物を探したりします。

分類

ツチブタは、かつては歯の特徴から貧歯目（アリクイ目）に分類されていましたが、体制が古く絶滅した髁節目に似ていることから、独立した管歯目として分類されました。管歯目は、第三紀にはヨーロッパや北アメリカにも生息していましたが、現在はアフリカのみに生息しています。

近年の遺伝子解析により、ツチブタは長鼻目（ゾウ）、カイギュウ目、イワダヌキ目などとともに、アフリカ獣類と呼ばれる系統に属することがわかっています。このことは、ツチブタがアフリカ大陸で独自に進化した種であることを示唆しています。

生態

ツチブタは、開けた森林、低木林、草原などに単独で生息する夜行性の動物です。昼間は自分で掘った巣穴で休み、夜になると活発に活動します。巣穴は、採食や一時的な隠れ家、出産など様々な目的で使用され、行動圏内には複数の巣穴を持っています。

主な食料はアリやシロアリで、乾季にはアリ、雨季にはシロアリを主に食べます。また、イナゴなどの昆虫や、植物の果実も食べることが確認されています。嗅覚と聴覚を頼りに獲物を探し、強力な前足で蟻塚を破壊したり、地面を掘り返したりして、長い舌で捕食します。

ツチブタの主な捕食者はブチハイエナですが、チーター、ヒョウ、ライオンなどの大型肉食動物にも襲われることがあります。

繁殖は胎生で、妊娠期間は約7ヶ月です。通常は1度に1頭の子を産みますが、まれに2頭産むこともあります。

人間との関係

ツチブタの英名Aardvarkは、アフリカーンス語に由来するオランダ語で「土の豚」という意味です。生息地では、肉が食用とされたり、爪や歯、体毛、皮膚などが装飾品や薬用として利用されることがあります。

分布が広いため、絶滅の危険性は低いと考えられていますが、農地開発による生息地の破壊や、食用としての狩猟により、地域によっては個体数が減少している場所もあります。

また、ツチブタは古代エジプトの神「セト」の頭部のモデルになったとも言われています。イスラム圏では、豚の一種と見なされ、食用が禁じられています。

日本では、静岡市立日本平動物園で飼育下繁殖に成功した例があります。

まとめ

ツチブタは、アフリカ大陸に生息するユニークな哺乳類で、その特異な形態や生態は、私たちに多くの驚きを与えてくれます。その進化の歴史や生態を研究することで、生物多様性の重要性を改めて認識することができます。

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