ティコ星表

ティコ星表（Tycho Catalogue）は、欧州宇宙機関（ESA）が運用した位置天文衛星「ヒッパルコス」が集めた観測データをもとに作成された重要な天体データ集です。「チホ星表」と呼ばれることもあります。この星表は、1989年から1993年にかけての観測結果を活用し、1997年に「Hipparcos-Messergebnisse」によって刊行されました。

ティコ星表は、同じヒッパルコス衛星の主要な成果である「ヒッパルコス星表」の製作作業と並行して進められました。ヒッパルコス星表が主観測装置のデータを使用したのに対し、ティコ星表は主に衛星の姿勢を精密に制御するために用いられた補助観測装置のデータを利用しています。この補助的なデータソースを用いた性質上、ティコ星表に収録された個々の星の位置を定める精度は、ヒッパルコス星表に比べてやや低い傾向があります。

具体的には、ティコ星表における星の平均的な位置精度は約25ミリ秒角（mas: milli-arc-second）とされています。これは極めて小さい角度ですが、より明るい9等級よりも明るい星については、その精度は約7ミリ秒角に向上します。精度においてはヒッパルコス星表に及ばないものの、ティコ星表の最大の特色は、その収録天体の膨大な数にあります。ヒッパルコス星表が比較的明るい星に限定されていたのに対し、ティコ星表はより多くの、最大で11.5等級までの星を網羅しています。特に、10.5等級よりも明るい星については、その約9割が含まれています。これにより、ティコ星表には100万個を超える星のデータが収められており、これはヒッパルコス星表を大幅に上回る収録数です。この広範なデータセットは、多くの天文学的な研究において貴重な情報源となりました。

ティコ星表が公開された後も、そのデータはさらなる解析を経て進化しました。その結果として生まれたのが、改良版である「ティコ第二星表（Tycho-2 Catalogue）」です。ティコ第二星表では、元のティコ星表の観測データをより高度な手法で再解析することで、収録されている星の位置や固有運動といった情報を、より高い精度で提供することに成功しました。また、収録されている天体の数も大きく増加し、250万個以上の星のデータが掲載されています。これにより、天文学者はより精密な宇宙の構造や天体の動きを研究するための基盤を得ることができました。

ティコ星表およびその後のティコ第二星表のデータは、天文学の研究者だけでなく、広く一般の人々にも利用可能な形で公開されています。インターネットを通じてこれらの膨大な星のカタログにアクセスし、参照することができます。これは、ヒッパルコス計画によって得られた貴重な天体位置情報が、天文学コミュニティ全体や宇宙に興味を持つすべての人々にとっての共有財産となっていることを示しています。これらの星表は、恒星の位置、固有運動、視差、明るさなどの基本的な天文データを提供し、銀河系の構造研究、星団の解析、距離測定、そして今後の観測計画の立案など、多岐にわたる天文学的探求の出発点として今なお活用されています。ティコ星表は、ヒッパルコス衛星が天文学にもたらした偉大な成果の一つとして、その名を刻んでいます。

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