ティサ・カールマーン

ティサ・カールマーン：19世紀ハンガリーを代表する政治家

ティサ・カールマーン（1830年-1902年）は、19世紀後半のハンガリーにおいて、15年にも及ぶ長期政権を築いた卓越した政治家でした。ハンガリー東部でプロテスタント系大地主貴族の家に生まれた彼は、若くして政治の世界に身を投じます。1848年のハンガリー革命では、責任内閣の宗教・公教育相を務めましたが、革命の失敗によって国外亡命を余儀なくされました。

帰国後、国会議員を経て、1867年のオーストリア＝ハンガリー二重君主国成立において重要な役割を果たします。当初はアウスグライヒ（妥協）推進派のデアーク・フェレンツと対立し、野党の中核を担っていましたが、後にアウスグライヒ支持に転じ、デアーク党と合流して自由党を結成しました。この自由党はその後、長くハンガリー議会で多数派を維持することになります。

1875年、ティサはハンガリー王国首相に就任。デアークの死後、ハンガリー政治の指導者として15年にわたる長期政権を樹立しました。彼の政権は、大地主貴族層を支持基盤とし、アウスグライヒ体制の維持を通じてハンガリーの利益を最大限に追求することを基本政策としていました。

具体的には、オーストリアとの共通関税制度において高関税を設定することで、ハンガリーの農業経済を保護しました。これは、外国産農作物の流入を防ぎ、地主貴族の経済的利益を守ろうとする政策でした。また、軍隊におけるハンガリー語とドイツ語の対等性を目指しましたが、これは大きな成果を収めることはありませんでした。

一方、国内政策においては、非ハンガリー語話地域へのハンガリー語教育義務化を進めるなど、ハンガリー化政策を推進しました。この政策は、スロバキアなどの少数民族の文化や言語に対する弾圧につながり、多くの批判を招きました。さらに、社会主義者や労働者の運動に対しても強硬な弾圧を行いました。

1890年に首相を辞任したティサは、1902年にブダペストで死去しました。彼の息子であるイシュトヴァーンも後にハンガリー首相を務め、父の後を継いでハンガリー政治をリードしていきました。

ティサ・カールマーンの長期政権は、ハンガリーの経済的繁栄と政治的安定に貢献した一方で、少数民族への弾圧や社会問題への対応において批判的な視点を欠いていたと評価されています。彼の政治姿勢は、アウスグライヒ体制下のハンガリー社会の複雑な構造を反映しており、その功罪は現在もなお議論の的となっています。彼の政治的遺産は、ハンガリー史、東欧史、そしてハプスブルク帝国の歴史を考える上で、重要な要素となっています。彼の首相在任期間は、オーストリア帝国首相を務めたエドゥアルト・ターフェの長期政権とほぼ重なっており、両者の政治的動向を比較することで、二重君主国時代の政治状況をより深く理解することができます。

参考文献

南塚信吾「ティサ（Tisza Kálmán）」柴宜弘・伊東孝之・南塚信吾・直野敦・萩原直監修『東欧を知る事典（新版）』平凡社、2015年
A・J・P・テイラー『ハプスブルク帝国 1809-1918：オーストリア帝国とオーストリア＝ハンガリーの歴史』筑摩書房、1987年
大津留厚『ハプスブルク帝国』山川出版社、1996年
南塚信吾編『ドナウ・ヨーロッパ史』山川出版社、1999年

もう一度検索