ティン・マシーン

ティン・マシーンは、1980年代後半にイギリスで結成されたロックバンドです。中心となったのは、すでに世界的な名声を確立していたミュージシャン、デヴィッド・ボウイ。彼のソロ活動とは一線を画すプロジェクトとして注目を集めました。

結成とその動機

バンドは1988年に始動しました。主要メンバーは、ボーカルとギターを担当したデヴィッド・ボウイ、ギタリストのリーヴス・ガブレルス、ベースのトニー・セイルス、そしてドラムスとボーカルのハント・セイルスです。セイルス兄弟は、イギー・ポップのバックを務めるなど、ボウイとは以前からの繋がりがありました。

このバンドを結成したボウイの狙いは明確でした。1980年代半ば以降に続いた『レッツ・ダンス』に代表されるような、商業的な成功とそれに伴う華やかで洗練されたサウンドからの脱却を図ること。よりストレートでロック的なアプローチを追求するためでした。この新たな挑戦にあたり、ボウイは自身のソロ名義での過去の楽曲は演奏しないと公言し、音楽活動における一区切りをつける姿勢を示しました。

活動と作品

1989年5月、バンドはファースト・アルバム『ティン・マシーン』をリリースします。この作品で聴かせた剥き出しのサウンドは、当時のボウイのイメージとは大きく異なり、賛否両論を巻き起こしました。しかし、その実験的な試みは一定の評価を得ることに成功します。アルバムに伴うツアーは、意図的に小規模な会場を選んで行われ、バンドとして観客との直接的な繋がりを重視する姿勢が見られました。その後、デヴィッド・ボウイが自身のソロ名義でのワールド・ツアーを行うため、バンドは一時的に活動を休止します。

1991年9月には、セカンド・アルバム『ティン・マシーンII』を発表します。しかし、このセカンド・アルバムは、商業的な成功も批評家からの高い評価も、残念ながら十分に得ることができませんでした。アルバムリリース後の同年10月からは、比較的規模の大きなワールド・ツアーが敢行されます。しかし、1992年2月17日に日本の日本武道館で行われた公演が、結果的にティン・マシーンとして最後のライブとなりました。このライブを終えた後、ボウイは再びソロ活動に専念し、過去の楽曲演奏を封印していた自身に終止符を打ちます。

バンドの活動終了後、1992年7月にはライブ・アルバム『ティン・マシーン・ライヴ oy vey, baby』がリリースされました。

解散の背景と評価

公式な解散声明は出されていませんが、バンドとしての活動は事実上終了しました。かつては3枚目のスタジオ・アルバムを制作する構想もあったとされていますが、それは実現しませんでした。解散の具体的な理由について、ボウイ自身はメンバーの個人的な問題があったと示唆しつつも、それ以上の詳細には触れていません。しかし、ボウイと長年協力してきたギタリストのカルロス・アロマーは、ドラマーのハント・セイルスが抱えていた薬物依存の問題がバンドの運営に度々困難をもたらし、ボウイを激怒させたことが原因の一つであると後に語っています。

デヴィッド・ボウイの長く豊かな音楽キャリア全体の中で見ると、ティン・マシーンの時期は、音楽的にも商業的にも必ずしも成功したとは見なされず、特異な期間として位置づけられています。現在に至るまで、ティン・マシーンの作品や活動に対する大規模な再評価の機運はあまり高まっていません。

ディスコグラフィ

アルバム

『ティン・マシーン』 - Tin Machine（1989年）
『ティン・マシーンII』 - Tin Machine II（1991年）
『ティン・マシーン・ライヴ oy vey, baby』 - Tin Machine Live oy Vey, Baby（1992年）

シングル

「Under the God」（1989年）
「Heaven's in Here」（1989年） - イギリスではシングルカットされず。
「Tin Machine / Maggie's Farm (live)」（1989年） - 両A面シングル。「Maggie's Farm」はボブ・ディランのカバー。
「Prisoner of Love」（1989年）
「You Belong in Rock N' Roll」（1991年）
「Baby Universal」（1991年）
「One Shot」（1991年） - 日本やドイツなどでシングルカット。
* 「Baby Universal (live)」（1992年） - BBCでのスタジオライブ音源を収録。日本でリリースされた。

これらの作品群は、ボウイがメインストリームからの距離を置き、ロックの原点回帰を目指した一時期の記録として、彼のキャリアにおける重要な試みであったと言えるでしょう。

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