テイル・スピニン

ウェザー・リポートが1975年4月に世に送り出した『テイル・スピニン (幻祭夜話)』（Tale Spinnin' ）は、彼らにとって通算5枚目にあたるオリジナル・スタジオアルバムです。この時期のバンドの創造性を示す作品群の一つとして位置づけられています。

短期集中セッションが生んだサウンド

本作は、1975年2月に集中的なレコーディングセッションを経て完成しました。このアルバムの制作において特筆すべきは、世界的なドラマー、レオン・ンドゥグ・チャンクラーの参加です。当時のリーダーであったジョー・ザヴィヌルは、レコーディングスタジオの隣のブースで、カルロス・サンタナと演奏していたチャンクラーの卓越したドラミングを偶然耳にし、直感的に彼をウェザー・リポートのセッションに誘いました。

この突発的な出会いから始まったセッションは、結果として約一週間にわたり続けられました。そして、この短くも濃密な共同作業の成果こそが、アルバム『テイル・スピニン』として結実することになったのです。チャンクラーは、この作品においてそのパワフルかつ繊細なプレイで、ウェザー・リポートのサウンドに新たな息吹を吹き込みました。

チャンクラーの唯一の参加作

アルバムの録音終了後、そのパフォーマンスに感銘を受けたザヴィヌルらは、チャンクラーにバンドのレギュラー・メンバーとして留まるよう要請します。しかし、チャンクラーは当時活動を共にしていたカルロス・サンタナのバンドでの活動を継続することを希望し、ウェザー・リポートからの正式な加入の申し出を丁重に辞退しました。このため、『テイル・スピニン』は、レオン・ンドゥグ・チャンクラーがウェザー・リポートのオリジナルアルバムでドラムを担当した唯一の作品となっています。

アルバムを彩る演奏者たち

本作には、ウェザー・リポートの核をなすメンバーに加え、ゲストミュージシャンが参加しています。主要メンバーは以下の通りです。

ジョー・ザヴィヌル (Joe Zawinul)：バンドのリーダーとして、このアルバムでも多岐にわたる楽器を演奏しています。ローズ・ピアノ、アコースティックピアノ、メロディカといった鍵盤楽器に加え、当時の最新鋭だったトント・シンセサイザーやアープ2600などの多様なシンセサイザー、オルガンを駆使。さらに、スティールパンやウード、アフリカのmzuthraやトーキングドラム、シロフォン、シンバルといった様々な民族楽器や打楽器、そして一部でボーカルも担当し、サウンドパレットに色彩を加えています。
ウェイン・ショーター (Wayne Shorter)：サックス奏者として、テナーサックスとソプラノサックスを演奏。彼のメロディックで時に実験的なプレイは、ウェザー・リポートサウンドの重要な要素です。
アルフォンソ・ジョンソン (Alphonso Johnson)：エレクトリックベースを担当。前作から参加し、この時期のバンドのリズムセクションを支えました。

そして、この作品に独特のグルーヴをもたらした

レオン・ンドゥグ・チャンクラー (Leon "Ndugu" Chancler)：ドラム、テインパニ、マーチング・シンバルを担当。

さらに、

* アリリオ・リマ (Alyrio Lima)：パーカッションで参加し、サウンドにポリリズミックなテクスチャーを加えています。

『テイル・スピニン』は、レオン・ンドゥグ・チャンクラーという強烈な個性を持つドラマーが一時的に参加したことで生まれた、ウェザー・リポートのディスコグラフィの中でも独自の輝きを放つ作品と言えるでしょう。短期間の共同作業ながら、当時のバンドの探求心と、ミュージシャンたちの高いレベルでの相互作用が見事に記録されています。

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