テオドルス (対立教皇)

テオドルス：ローマ教皇選挙と対立の渦中

7世紀後半、ローマ教皇位を巡る争いは、しばしば権力闘争と社会不安を生み出しました。テオドルスはその混乱期における象徴的な人物と言えるでしょう。彼の生没年は不明ですが、687年に短期間ではありましたが、対立教皇として歴史に名を刻んでいます。

686年8月に行われた教皇選挙。テオドルスは教皇の座を目指し立候補しましたが、コノンに敗れました。しかし、この敗北が彼の歴史への関与の終焉を意味するわけではありませんでした。翌687年、ローマにおいて新たな対立が勃発します。コノン教皇が死去すると、テオドルスは再び教皇選挙に名乗りを上げました。

しかし、テオドルスへの支持は一枚岩ではありませんでした。彼に不満を持つ勢力が、パスカリスという人物を新たな教皇候補として擁立したのです。状況はさらに複雑さを増します。東ローマ帝国の重要な拠点であったラヴェンナ総督までもが、パスカリス支持派に寝返ったのです。ラヴェンナ総督の支持は、東ローマ帝国からの影響力行使を示唆しており、ローマ教皇選挙が単なる国内問題にとどまらない国際的な政治的駆け引きを含んでいたことを如実に物語っています。

この結果、ラテラノ宮殿はテオドルス派とパスカリス派によって二分され、両派は宮殿を半分ずつ占拠して対立を続けました。ローマは、教皇位継承問題をめぐる争いで深刻な混乱に陥っていたのです。

この異様な事態を憂慮したローマ市民は、ついに決断を下します。687年12月15日、市民たちはセルギウス1世を新たな教皇として擁立し、テオドルスとパスカリスの両者の退位を求めました。市民の強い求めに応じて、テオドルスは教皇の座を放棄、退位することとなります。

テオドルスの短い対立教皇としての在位期間は、7世紀後半のローマにおける政治的不安定と、教皇選挙を取り巻く複雑な権力闘争を象徴的に示しています。東ローマ帝国の介入、ローマ市民の政治参加、そして対立候補の出現など、様々な要因が絡み合い、ローマ教皇選挙を激動の時代へと導いたと言えるでしょう。テオドルスの生涯は、歴史の表舞台に立つことは少なかったものの、この時代のローマ教会の混沌とした状況を理解する上で重要な一端を担っていると言えるでしょう。彼の退位によって、セルギウス1世の時代が幕を開け、ローマ教皇選挙をめぐる争いはひとまず終息に向かいます。しかし、この出来事がローマ教会における権力闘争の終焉を意味したわけではありません。この後の時代においても、教皇位継承を巡る争いは度々発生し続けたのです。

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