テック公

テック公爵とは

テック公（ドイツ語: Herzog von Teck）は、ドイツ貴族の称号です。この称号は、歴史の中で二つの異なる家系によって使用されました。一つは中世のツェーリンゲン家、もう一つは19世紀以降のヴュルテンベルク家です。テック公の歴史は、中世の封建社会から近現代の国際政治まで、ヨーロッパの歴史と深く関わっています。

中世のテック公

中世において、テック公はツェーリンゲン家の傍系によって使用されました。12世紀末、ツェーリンゲン大公コンラート1世の息子であるアーダルベルトが、テック城を中心とする地域を相続し、「テック公」を名乗ったのが始まりです。この地域は、現在のキルヒハイムとオーヴェンの間に位置しています。

13世紀に入ると、ツェーリンゲン家のテック公爵領は、テック＝オーベルンドルフとテック＝オーヴェンの二つに分裂します。テック＝オーヴェン公爵領は1365年にミンデルハイム侯領に併合され、1381年にはテック城を含む地域がヴュルテンベルク伯に売却されました。そして、ツェーリンゲン家のテック家は1439年に断絶し、中世におけるテック公爵は歴史から姿を消しました。

ヴュルテンベルク家によるテック公爵位の継承

1495年、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世は、ヴュルテンベルク伯エーバーハルト5世をヴュルテンベルク公に昇叙する際、同時に相続者のいなくなったテック公の称号も彼に与えました。しかし、この称号は19世紀に至るまで使用されることはありませんでした。

近代のテック公

19世紀になり、ヴュルテンベルク王フリードリヒ1世の甥であるアレクサンダーが、ハンガリー貴族のレーデイ・クラウディア伯爵夫人と貴賤結婚しました。二人の息子フランツは、ヴュルテンベルクの王族としての称号や王位継承権を与えられませんでしたが、ヴュルテンベルク王ヴィルヘルム1世によって1863年にテック侯（Fürst von Teck）の称号を与えられました。さらに1871年には、カール1世王によってテック公（Herzog von Teck）に昇叙されました。

イギリス王室との関係

フランツは1866年にイギリス王ジョージ3世の孫娘メアリー・アデレード・オブ・ケンブリッジと結婚しました。この結婚により、テック公爵家はイギリス王室との深いつながりを持つことになります。しかし、フランツ自身は収入がなく、妻メアリー・アデレードのイギリス議会からの王族年金で生活せざるを得ませんでした。そのため、テック公爵夫妻はロンドンで生活することになりました。

メアリー・アデレードの従姉にあたるイギリス女王ヴィクトリアは、フランツに「His Highness」の敬称を与え、テック公爵家はイギリス王室の中で一定の地位を確立しました。1892年、テック公爵夫妻の長女メアリーが、後のイギリス王ジョージ5世となるヨーク公と結婚したことで、テック公爵家は正式なイギリス王室の一員として扱われるようになりました。

第一次世界大戦の影響

1900年にフランツが亡くなると、長男のアドルファスがテック公爵位を継承しました。1911年には、義兄であるイギリス王ジョージ5世から「His Highness」の敬称を与えられましたが、この平穏は長くは続きませんでした。

第一次世界大戦が勃発すると、イギリス国内では反ドイツ感情が高まりました。ジョージ5世は、ドイツ由来の家名であるサクス＝コーバーグ＝ゴータ家を捨ててウィンザー家に改称し、自身の持つドイツ由来の称号を全て放棄しました。これに伴い、イギリス王室に連なるドイツ系の人々も全員イギリスに帰化することになりました。

テック公アドルファスとその家族も例外ではなく、ヴュルテンベルク王国の爵位であるテック公およびテック侯の称号を放棄しました。アドルファスは、母方の祖父であるケンブリッジ公アドルファスの称号に因むケンブリッジ侯爵に叙せられ、公爵の家族は新しく「ケンブリッジ」姓を名乗ることになりました。また、アドルファスの弟アレクサンダーはアスローン伯爵に叙せられました。

テック公爵位の消滅

第一次世界大戦の終結と同時に、ヴュルテンベルク王国は消滅し、ヴァイマル共和国の一部となりました。これにより、ヴュルテンベルク王国におけるテック公爵位の再創設は不可能となりました。テック公フランツの最後の男系男子である第2代ケンブリッジ侯爵ジョージは1981年に亡くなったため、現在、テック公爵位を請求する権利のある者は存在しません。こうして、テック公爵の歴史は幕を閉じたのです。