テナードラム

テナードラム（tenor drum）、またはテノールドラムは、打楽器に分類される両面太鼓です。具体的には、筒状の胴体の両端に膜が張られており、この膜の振動によって音を出す膜鳴楽器の一種です。その基本的な構造はスネアドラムと共通していますが、一般的にスネアドラムよりも一回り大きなサイズを持っています。胴の材質としては、木材が用いられることが一般的です。

演奏する際には、主にスティックやマレットといった撥（ばち）が使用されます。これらの撥の種類によって、楽器から得られる音色や響きが変化します。

スネアドラムの最大の特徴であるスナッピー（響き線）は、テナードラムには通常備え付けられていません。これにより、スナッピーが付いた楽器とは異なる、よりクリアでこもりの少ない響きが生まれます。しかし、例外的に、特に野外での演奏や行進（マーチング）に用いることを想定した、深さのある小太鼓としてテナードラムが使用される場合には、スナッピーが取り付けられている個体も存在します。

楽譜上で楽器が「テナードラム」や「フィールドドラム」と指定されている場合、具体的な演奏方法（例えば、スティックとマレットのどちらを使うか、スナッピーの有無など）が詳細に指示されていないことがあります。このような場合、奏者は作曲者が意図した音楽表現を実現するために、様々な要素を考慮して演奏方法を選択する必要があります。考慮すべき要素としては、作曲された時代や地域、楽曲のジャンルや全体の雰囲気、そして作曲者自身の音楽的な背景などが挙げられます。

また、テナードラムには、マーチングバンドの世界で重要な役割を担う特殊な形態が存在します。これは「マルチテナードラム（multi tenor drums）」と呼ばれ、複数のテナードラム（概ね3台から6台）を一つにセットにし、専用のキャリングホルダーを用いて奏者が肩や腰に担いで演奏できるようにした楽器です。この形態は、一度に多様なピッチの音を出すことが可能であるため、メロディーラインの一部や複雑なリズムパターンを演奏するのに適しています。マルチテナードラムは、その形状から「マルチトム（multi toms）」や「ティンプトム（timp toms）」といった別名でも知られています。さらに、セットに含まれる太鼓の台数によって、3台なら「トリオ（trio）」、4台なら「クォード（quad）」、5台なら「クィント（quint）」などと呼ばれることもあります。

テナードラムは、その基本的な構造と、演奏方法や付属機構の選択肢の多様性、そして特殊な形態であるマルチテナードラムの存在によって、様々な音楽シーン、特に吹奏楽やマーチングバンドにおいて、特徴的な音色と表現力を持つ打楽器として重要な位置を占めています。

もう一度検索