テレマコ・シニョリーニ

テレマコ・シニョリーニ（Telemaco Signorini, 1835年8月18日 - 1901年2月10日）は、19世紀イタリアの美術界において、写実主義の旗手として重要な役割を果たした画家です。特に、トスカーナ地方を拠点としたマッキア派の中心的メンバーとして知られています。

生涯と芸術活動

シニョリーニは、フィレンツェで風景画家ジョヴァンニ・シニョリーニを父に持ち、芸術的な環境で育ちました。1852年、フィレンツェ美術学校に入学しますが、早くから伝統的なアカデミズムに飽き足らず、1854年には野外での制作を開始しました。

フィレンツェの芸術家たちが集う「カッフェ・ミケランジェロ」は、シニョリーニにとって重要な場所でした。そこで、ジョヴァンニ・ファットーリやシルヴェストロ・レーガといった、後にマッキア派を形成する画家たちと交流を深めます。彼らとの出会いは、シニョリーニの芸術観に大きな影響を与えました。

1859年には、ジュゼッペ・ガリバルディの進軍に加わり、戦場での経験を基にした戦争画を制作し、画家としての注目を集めます。この時期の作品には、彼の情熱と写実的な表現へのこだわりが見られます。

1861年、シニョリーニは初めてパリを訪れ、フランスの写実主義の巨匠であるコローと出会いました。また、クールベのスタイルに強く惹かれ、その影響を自身の作品に取り入れるようになります。このパリでの経験は、彼の画風を大きく変える転機となりました。

1862年、フィレンツェ近郊のペルジェンティーナなどで、他のマッキア派の画家たちと共に制作活動を行いました。この時期、彼らは、従来の絵画の慣習にとらわれず、光と影の効果を重視した、独特な「マッキア（斑点）」と呼ばれる技法を確立していきました。1868年と1872年にもパリを訪問し、エドガー・ドガとも交流し、芸術的な視野を広げました。

シニョリーニは、マッキア派を代表する画家として、その理念を広める重要な役割を果たしました。画家のアドリアーノ・チェチオーニや美術評論家のディエゴ・マルテリらと共に、彼らの芸術運動を理論的に支え、マルテリの著作の挿絵も手掛けました。また、フィレンツェ、トリノ、ナポリ、ヴェネツィアなど、イタリア各地の展覧会に出品し、その作品は高い評価を受けました。

1883年には、フィレンツェ美術学校の教授就任を要請されましたが、これを辞退。その後、1892年からフィレンツェの上級学校で教鞭をとり、後進の育成にも貢献しました。彼の教育活動は、次世代の画家たちに大きな影響を与えました。

作品の特徴と評価

シニョリーニの作品は、身近な風景や日常生活を題材に、写実的な描写と光の表現に特徴があります。彼は、野外での制作を重視し、自然の光の中で対象を観察し、その印象をキャンバスに捉えることに腐心しました。彼の作品には、力強い筆致と、独特な色彩感覚が表れており、見る者に強い印象を与えます。

マッキア派の画家たちは、光と影の効果を重視し、色の斑点を重ねることで、対象の印象を捉えようとしました。シニョリーニの作品も、この特徴をよく表しており、彼の独特な視点と表現力は、現在でも高く評価されています。

参考文献

L. Vertova, Kindlers Malereilexikon, dtv 1982
E. Somaré Telemaco Signorini, Mailand 1926, Bergamo 1931
U. Ojetti Telemaco Signorini Mailand 1911, Rom 1930
Norma Broude The Macchiaioli: Italian Painters of the Nineteenth Century, Yale University Press 1987
* E. Steingräber, G. Matteucci The Macchiaioli: Tuscan Painters of the Sunlight, Ausstellungskatalog, März/April 1984, New York: Stair Sainty Matthiesen Gallerie, in Zusammenarbeit mit Matthiesen, London.

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