ジョヴァンニ・ファットーリ
ジョヴァンニ・ファットーリは、1825年にイタリアのリヴォルノで生まれ、1908年にフィレンツェで亡くなった画家、版画家です。彼は、マッキアイオーリ（マッキア派）と呼ばれる画家グループを代表する存在でした。
青年時代と修業期
ファットーリは、リヴォルノの質素な家庭に生まれました。幼少期は十分な教育を受ける機会に恵まれなかったため、家族は彼に商業を学ぶことを勧めました。しかし、ファットーリはデッサンに才能を発揮し、家族を説得して画家の道に進みました。1845年、20歳で地元の画家ジュゼッペ・バルディーニに師事し、翌年にはフィレンツェに移ってジュゼッペ・ベッツォーリのもとで学びました。その後、フィレンツェの美術アカデミーに入学しますが、絵画の勉強以上に歴史小説に没頭し、ウーゴ・フォスコロやウォルター・スコットなどの作品を愛読しました。
1848年、ファットーリは絵画の修行を一時中断し、イタリア統一戦争の民主化運動に参加しました。しかし、家族の説得により再びアカデミーで学び始めました。彼は常に小さなノートを持ち歩き、スケッチとメモで日々の観察を記録する習慣を持っていました。後年のエッチング作品には、この時のスケッチが活用されています。
初期作品
ファットーリが本格的な画家になるまでの過程は緩やかなものでした。彼の初期作品はわずかしか残っておらず、その多くは1850年代初頭以降のものです。初期の作品には肖像画や歴史画があり、歴史画は師のベッツオーリの影響を受けています。1851年にはトンマーゾ・グロッシの小説を基にした『イルデゴンダ』を展覧会に出品しました。1853年から翌年にかけては、画家アンドレア・ガスタルディと共にレアリスム絵画を研究し、風景画を描き始めました。また、エンリコ・ポラストリーニを通して新古典主義の巨匠アングルの様式を知り、歴史画に影響を受けました。代表作の一つに、ウォルター・スコットの小説を基にした『マリア・ストゥアルダ』があります。
1850年代の初期、ファットーリは芸術家が集まるカッフェ・ミケランジェロに出入りしていました。ここでは、新しい芸術や政治について議論が交わされていました。カフェの常連客の中には、バルビゾン派の展覧会を見て感銘を受け、その影響をイタリアに持ち帰った人々がいました。1859年、ファットーリはローマの風景画家ジョヴァンニ・コスタと出会い、彼の作品に影響を受けて、外光の下で写実的な風景や同時代の生活を描き始めました。これがマッキア派の一員となる転換点となりました。マッキア派は、トスカーナ地方の画家集団で、その技法は印象派と似ており、印象派の先駆けとも言われています。マッキア派の絵画は、装飾性を欠き、伝統的な絵画のような細密な仕上げがないと批判されましたが、印象派ほど形態が曖昧になることはありませんでした。
1859年、ファットーリは愛国的な戦争画コンクールに入選し、賞金を得てセッティミア・ヴァンヌッチと結婚しました。
中期作品 (1861 – 1883年)
ファットーリの円熟期の作品は、鮮明な色斑（マッキア）を用いた外光派の表現と、スケッチを基にアトリエで制作する伝統的な手法を融合させたものです。1864年には複数の作品を展覧会に出品しました。風景画『パルミエーリのロトンダ』では、単純化された幾何学的構成と明瞭な色彩が特徴的です。1866年には大きなアトリエに移り、イタリア統一運動に関連した戦争画の注文を受けました。この時期の代表作には、『マドンナ・デッラ・スコペルタの攻撃』があります。
1867年、妻の死後、ファットーリは批評家のディエゴ・マルテッリと共にカスティリオンチェッロで過ごし、ジュゼッペ・アッバーティと共に野外で風景画や農民の生活を描きました。これらの作品では、幾何学的な構成と強い光が強調されています。代表作に『牛車と農夫のいるマレンマでの休息』があります。
1870年には戦争画が入賞し、1873年には『テッラチーナの馬市場』の習作がウィーン万国博覧会で銅メダルを獲得しました。1875年にはパリを訪れ、多くの画家と交流しましたが、彼は印象派よりもバルビゾン派に惹かれました。
1869年からはフィレンツェのアカデミーで教鞭を執り始めましたが、経済的な苦境に陥っていました。戦争画の売れ行きが悪く、税金の滞納や不動産の差し押さえに苦しみました。さらに、膝の怪我にも悩まされました。1878年にはパリの万国博覧会に絵画を出品しましたが、自身は参加することができませんでした。1870年代後期以降の作品には、彼の絶望感が表れています。1880年代には、田園生活をテーマにした作品を多く制作しました。マレンマ地方を訪れた経験から、牛の群れを題材にした作品を制作し、ヴェネツィア万国博覧会で展示されました。
晩年の絵画とエッチング (1884 – 1908年)
1875年以降、ファットーリは版画制作に力を入れるようになり、1884年からは多数のエッチング作品を制作しました。これらの作品は展覧会で高く評価され、ローマ国立近代美術館に買い上げられました。彼の版画は、技法と構成の両面で画期的でした。1884年には写真複製アルバムを制作し、1888年にはフィレンツェのアカデミーで教授に昇任しました。彼は野外で木製パネルにスケッチし、それらを基に大きなサイズの田園風景画を制作しました。代表作に『マレンマにおける子馬の焼印押し』や『マレンマの牛飼いと牛の群れ』があります。これらの作品には、当時の伝統的な絵画には欠けていた、ドラマチックさと広々とした感覚が表現されています。ファットーリは、ケルン、ボローニャ、ミラノ、トリノ、フィレンツェなどの展覧会に参加し、パリ万国博覧会では金メダルを授与されました。1891年には再婚しましたが、経済状況は厳しく、再び個人レッスンをせざるを得なくなりました。1896年には、経済的な理由からドレスデンの展覧会への出品を断念しました。また、歴史小説や風刺新聞の挿絵も描きました。1900年にはトリノの美術アカデミーの一員になりました。
老年期のファットーリは、イタリア統一後の社会政治秩序に失望し、古い伝統に固執しました。彼は新しい芸術の動向を好まず、正直さと率直さで知られていましたが、新印象主義や分割主義を批判しました。彼は、人生に対する深い絶望感を抱えており、晩年の作品にはその心情が表れています。
ファットーリは1908年8月30日にフィレンツェで亡くなり、故郷リヴォルノ近くの聖堂に埋葬されました。
没後の評価
ファットーリはマッキア派を代表する画家として知られています。彼は戦争をテーマにした作品を数多く描きましたが、戦闘場面ではなく、野営地での兵士や休息中の歩兵隊などを描きました。また、繊細な肖像画、風景画、田園生活、馬をテーマにした作品も制作しました。晩年は、新しい芸術の潮流から取り残されたことが彼の凋落につながりました。彼の作品は同時代の人々の関心を引くことが少なくなり、経済的な困窮を招きました。しかし、彼の作品は現在、ローマ国立近代美術館、トリノの市立近現代美術館、ミラノのブレラ絵画館、フィレンツェのピッティ宮殿の近代美術館などで見ることができます。また、故郷のリヴォルノには市立ファットーリ美術館があります。
青年時代と修業期
ファットーリは、リヴォルノの質素な家庭に生まれました。幼少期は十分な教育を受ける機会に恵まれなかったため、家族は彼に商業を学ぶことを勧めました。しかし、ファットーリはデッサンに才能を発揮し、家族を説得して画家の道に進みました。1845年、20歳で地元の画家ジュゼッペ・バルディーニに師事し、翌年にはフィレンツェに移ってジュゼッペ・ベッツォーリのもとで学びました。その後、フィレンツェの美術アカデミーに入学しますが、絵画の勉強以上に歴史小説に没頭し、ウーゴ・フォスコロやウォルター・スコットなどの作品を愛読しました。
1848年、ファットーリは絵画の修行を一時中断し、イタリア統一戦争の民主化運動に参加しました。しかし、家族の説得により再びアカデミーで学び始めました。彼は常に小さなノートを持ち歩き、スケッチとメモで日々の観察を記録する習慣を持っていました。後年のエッチング作品には、この時のスケッチが活用されています。
初期作品
ファットーリが本格的な画家になるまでの過程は緩やかなものでした。彼の初期作品はわずかしか残っておらず、その多くは1850年代初頭以降のものです。初期の作品には肖像画や歴史画があり、歴史画は師のベッツオーリの影響を受けています。1851年にはトンマーゾ・グロッシの小説を基にした『イルデゴンダ』を展覧会に出品しました。1853年から翌年にかけては、画家アンドレア・ガスタルディと共にレアリスム絵画を研究し、風景画を描き始めました。また、エンリコ・ポラストリーニを通して新古典主義の巨匠アングルの様式を知り、歴史画に影響を受けました。代表作の一つに、ウォルター・スコットの小説を基にした『マリア・ストゥアルダ』があります。
1850年代の初期、ファットーリは芸術家が集まるカッフェ・ミケランジェロに出入りしていました。ここでは、新しい芸術や政治について議論が交わされていました。カフェの常連客の中には、バルビゾン派の展覧会を見て感銘を受け、その影響をイタリアに持ち帰った人々がいました。1859年、ファットーリはローマの風景画家ジョヴァンニ・コスタと出会い、彼の作品に影響を受けて、外光の下で写実的な風景や同時代の生活を描き始めました。これがマッキア派の一員となる転換点となりました。マッキア派は、トスカーナ地方の画家集団で、その技法は印象派と似ており、印象派の先駆けとも言われています。マッキア派の絵画は、装飾性を欠き、伝統的な絵画のような細密な仕上げがないと批判されましたが、印象派ほど形態が曖昧になることはありませんでした。
1859年、ファットーリは愛国的な戦争画コンクールに入選し、賞金を得てセッティミア・ヴァンヌッチと結婚しました。
中期作品 (1861 – 1883年)
ファットーリの円熟期の作品は、鮮明な色斑（マッキア）を用いた外光派の表現と、スケッチを基にアトリエで制作する伝統的な手法を融合させたものです。1864年には複数の作品を展覧会に出品しました。風景画『パルミエーリのロトンダ』では、単純化された幾何学的構成と明瞭な色彩が特徴的です。1866年には大きなアトリエに移り、イタリア統一運動に関連した戦争画の注文を受けました。この時期の代表作には、『マドンナ・デッラ・スコペルタの攻撃』があります。
1867年、妻の死後、ファットーリは批評家のディエゴ・マルテッリと共にカスティリオンチェッロで過ごし、ジュゼッペ・アッバーティと共に野外で風景画や農民の生活を描きました。これらの作品では、幾何学的な構成と強い光が強調されています。代表作に『牛車と農夫のいるマレンマでの休息』があります。
1870年には戦争画が入賞し、1873年には『テッラチーナの馬市場』の習作がウィーン万国博覧会で銅メダルを獲得しました。1875年にはパリを訪れ、多くの画家と交流しましたが、彼は印象派よりもバルビゾン派に惹かれました。
1869年からはフィレンツェのアカデミーで教鞭を執り始めましたが、経済的な苦境に陥っていました。戦争画の売れ行きが悪く、税金の滞納や不動産の差し押さえに苦しみました。さらに、膝の怪我にも悩まされました。1878年にはパリの万国博覧会に絵画を出品しましたが、自身は参加することができませんでした。1870年代後期以降の作品には、彼の絶望感が表れています。1880年代には、田園生活をテーマにした作品を多く制作しました。マレンマ地方を訪れた経験から、牛の群れを題材にした作品を制作し、ヴェネツィア万国博覧会で展示されました。
晩年の絵画とエッチング (1884 – 1908年)
1875年以降、ファットーリは版画制作に力を入れるようになり、1884年からは多数のエッチング作品を制作しました。これらの作品は展覧会で高く評価され、ローマ国立近代美術館に買い上げられました。彼の版画は、技法と構成の両面で画期的でした。1884年には写真複製アルバムを制作し、1888年にはフィレンツェのアカデミーで教授に昇任しました。彼は野外で木製パネルにスケッチし、それらを基に大きなサイズの田園風景画を制作しました。代表作に『マレンマにおける子馬の焼印押し』や『マレンマの牛飼いと牛の群れ』があります。これらの作品には、当時の伝統的な絵画には欠けていた、ドラマチックさと広々とした感覚が表現されています。ファットーリは、ケルン、ボローニャ、ミラノ、トリノ、フィレンツェなどの展覧会に参加し、パリ万国博覧会では金メダルを授与されました。1891年には再婚しましたが、経済状況は厳しく、再び個人レッスンをせざるを得なくなりました。1896年には、経済的な理由からドレスデンの展覧会への出品を断念しました。また、歴史小説や風刺新聞の挿絵も描きました。1900年にはトリノの美術アカデミーの一員になりました。
老年期のファットーリは、イタリア統一後の社会政治秩序に失望し、古い伝統に固執しました。彼は新しい芸術の動向を好まず、正直さと率直さで知られていましたが、新印象主義や分割主義を批判しました。彼は、人生に対する深い絶望感を抱えており、晩年の作品にはその心情が表れています。
ファットーリは1908年8月30日にフィレンツェで亡くなり、故郷リヴォルノ近くの聖堂に埋葬されました。
没後の評価
ファットーリはマッキア派を代表する画家として知られています。彼は戦争をテーマにした作品を数多く描きましたが、戦闘場面ではなく、野営地での兵士や休息中の歩兵隊などを描きました。また、繊細な肖像画、風景画、田園生活、馬をテーマにした作品も制作しました。晩年は、新しい芸術の潮流から取り残されたことが彼の凋落につながりました。彼の作品は同時代の人々の関心を引くことが少なくなり、経済的な困窮を招きました。しかし、彼の作品は現在、ローマ国立近代美術館、トリノの市立近現代美術館、ミラノのブレラ絵画館、フィレンツェのピッティ宮殿の近代美術館などで見ることができます。また、故郷のリヴォルノには市立ファットーリ美術館があります。
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