テンキグサ

テンキグサ（Leymus mollis）

テンキグサは、イネ科に属する海浜植物で、主に砂浜や砂丘に生育します。地下茎を伸ばしながら群落を形成し、高さは50-120cmに達します。特に北方で見られる個体は、茎が太く、基部の直径が1-2cmにもなるため、見た目がニンニクの茎に似ていることから別名「ハマニンニク」とも呼ばれています。茎は円柱状で中空、中上部には軟毛が生えています。

葉の形状は長さ20-40cm、幅7-15mmで、硬く、表面には多くの葉脈が隆起しており、光沢はありません。葉の裏面は滑らかで、光沢があり、葉先は内側に巻いており、刺のような形状を呈しています。穂は葉を超える高さで、白い柔らかな毛に覆われています。

名称の由来

【テンキグサ】という名称はアイヌ語に由来し、葉を乾燥させたものを「テンキ」と呼び、そこから名付けられたと考えられています。また、別名の「ハマニンニク」はその名の通り、浜辺に自生し、ニンニクの葉に似ていることから来ています。多くの著作において、これらの名称の使用について議論がなされていますが、一般的にはテンキグサが標準名とされています。

分布と生育環境

この植物は北アメリカからシベリア、そして日本にかけて広く分布しています。亜寒帯から温帯の地域に生息しており、日本では北海道をはじめ、本州の太平洋側の房総半島、日本海側では山口県まで見ることができます。さらに九州の福岡県の一部と対馬にも分布しており、これが本種の自然分布の南限です。特に北日本の海岸では一般的に見られ、北海道では砂丘の上部で広く自生していますが、南に行くにつれて生育場所は海岸線近くに限定されます。

テンキグサは地下茎を伸ばし、砂を効果的に捕集する能力があるため、砂丘の形成に重要な役割を果たしています。

分類と類似種

テンキグサは以前、エゾムギ属（Elymus）に分類されていましたが、現在は独自の属に属しています。類似の植物には、北半球の温帯に約50種が存在しますが、日本ではこの種のみが知られています。ヨーロッパの海岸には似た形態を持つL. arenariusがありますが、こちらも毛足が長いことが特徴です。また、エゾムギ属にはいくつかの種があり、その中でもハマムギ（Elymus dahuricus）が海岸性で直立した穂を持ちますが、葉幅が狭く、全体のサイズは小さいため、見分けることが可能です。

利用と文化

古くからアイヌの人々はテンキグサの葉を使い、籠などを編んでいました。アイヌの言語では「ムリッ」や「ライムン」と呼ばれ、全草を利用する方法や根を煎じて薬用に用いることもありました。また、葉を利用して作られた容器「テンキ」は、糸や針を保管するために使われ、葬儀の際には遺体を包む紐「ムリㇼ」を編むのにも利用されていました。

籠の作り方にはいくつかの技法が存在し、中でもコイリング編みは特に北アメリカやアリューシャン列島などで広まっていましたが、アイヌにおいては千島アイヌにのみ見られました。テンキグサは砂地に自生し、砂の移動を抑制する能力から、人工的に植栽されることもあります。

この植物は雪解け後から生長し、7月には1m以上に達し、葉が熟成し、青みを残した状態で刈り取られ、さまざまな文化や生活様式に取り入れられてきました。

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