テングリ

テングリとは

テングリは、アジア北方の遊牧民族に共通する信仰であり、「天上世界」や「運命神」、「創造神」を示す言葉です。この用語は、匈奴語の「撐犁」や現代モンゴル語の「Тэнгэр」など、様々な言語において異なる形で現れます。一般的に、中国の文献では「天」の概念と同一視されることが多いですが、実際にはいくつかの相違点があります。

定義と特徴

テングリという言葉は、中国の「天」という概念と非常に似通っていますが、重要な違いがあります。中国の文献における「天」は、しばしば人格神である天帝を意味し、その象徴として北極星が挙げられます。一方、テングリは、澄んだ青空を象徴するものと考えられており、より自然的な存在として捉えられています。

テングリを崇拝する信仰は、匈奴時代から存在し、モンゴルの宇宙創造神話においては、「テングリ・ハイラハン」として地上を創造した神ともされており、この視点は中国の神話には見られません。また、ブリヤート族の神話には「西の善きテングリ」と「東の悪しきテングリ」といった二元的表現が存在しており、これは祆教の影響によると考えられます。この点から、テングリは必ずしも唯一神ではなく、複数の神格が存在することが推測され、それは「天」との大きな違いの一部です。

さらに、テングリは男性的な神であり、それに対して大地は女性神として位置づけられています。このように、テングリは自然界の様々な要素と非常に密接に結びついています。現代において、カムチャツカ半島からマルマラ海にかけての遊牧民たちは、シャーマニズムに基づいたテングリへの祭祀を行い、テングリ信仰は生き続けています。

外のアジア諸国での影響

テングリ崇拝は、中国の天命思想との関わりが見られる一方で、逆に中国語の火の神である「重黎」から音写されたとの見解もあります。これにより、「天」がテングリから派生したとも言われていますが、どちらが先であるかの確定的な証拠はありません。また、日本の「高天原」や言葉の「契る（ちぎる）」がテングリとの関連性を持つとされることもあります。さらに、ポリネシアの神話に登場するタナガロアもテングリに由来するという説も存在します。

ただし、これらの関連性に関する考察は十分に検証されていないことが多く、テングリ崇拝自体が非常に多様で複雑なため、関連性についての明確な結論を出すにはさらなる研究が必要です。

まとめ

テングリは、シンプルな概念ではなく、その歴史や文脈によってさまざまな解釈が可能です。遊牧民族の文化や信仰体系に深く根ざしながら、自然と神聖が交わる独自の世界観を形成しています。その理解を深めるためには、文化的背景や歴史を広く探ることが求められるでしょう。

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