匈奴

匈奴とは

匈奴（きょうど、Xiongnu）は、紀元前3世紀から1世紀後半にかけて、ユーラシア大陸東部のステップ地帯に存在した遊牧民の連合体です。中国の史書にその名が頻繁に登場し、強大な軍事力と独特の文化で知られています。彼らの歴史は、東アジアの古代史を語る上で欠かせない重要な要素です。

歴史

成立と勢力拡大

匈奴は、紀元前3世紀頃に遊牧民として台頭しました。紀元前209年、冒頓単于（ぼくとつぜんう）が指導者となり、匈奴帝国を築き上げました。彼は周辺の遊牧民族を次々と征服し、モンゴル高原を中心とした広大な領域を支配下に置きました。

前[[漢]]との対立

匈奴は、隣接する前[[漢]]（中国の王朝）とたびたび衝突しました。紀元前200年には、白登山の戦いで漢の高祖・劉邦を包囲し、漢は匈奴に対し、貢物を送る屈辱的な講和を結ばざるを得ませんでした。

その後も、匈奴は漢の国境を侵略し、両者の間で激しい戦いが繰り広げられました。しかし、漢の武帝の時代になると、漢軍は匈奴に対して攻勢に転じ、匈奴の勢力は徐々に衰退しました。

分裂と衰退

匈奴は、紀元前1世紀に内紛によって南北に分裂しました。南匈奴は漢に服属し、北匈奴はその後も抵抗を続けましたが、後[[漢]]によって最終的に滅亡しました。その後、南匈奴は中国の王朝に吸収され、歴史の舞台から姿を消しました。

五[[胡十六国時代]]

匈奴の末裔の一部は、4世紀から5世紀にかけての五[[胡十六国時代]]に、中国北部に王朝を建てました。前趙や後夏などの国がその例です。彼らは、この地域において政治的な影響力を持ちましたが、最終的には他の民族に滅ぼされました。

民族と語源

民族系統

匈奴の中心となる民族系統については、様々な説があります。中国の史書には、匈奴は夏王朝時代の葷粥（くんいく）、殷王朝時代の鬼方、周王朝時代の獫狁（けんいん）などと関連付けられています。しかし、これらの部族が同一であるか、あるいは匈奴とどのような関係があるかは明確ではありません。

語源

「匈奴」という名称の語源についても、多くの説があります。有力な説としては、以下のようなものが挙げられます。

葷粥（くんいく）説： 匈奴の古代音「ヒュエンツュク」が転訛したとする説。
始祖説： 匈奴の始祖である淳維（じゅんい）に由来するとする説。
悪字説： 「匈」と「奴」が漢語で悪い意味を持つことから、騒乱を起こす連中を指す言葉とする説。
トーテム獣説： 匈奴のトーテム獣が豕（いのしし）であり、その名に由来するとする説。

また、匈奴の名称は、フン族やフナ族の名称と同根である可能性も指摘されていますが、これには異論もあります。

言語

匈奴語がどの言語系統に属するかは、現在も解明されていません。史書には少数の単語が残っていますが、言語系統を特定するには不十分です。様々な説が提唱されていますが、どれも確証には至っていません。

イラン語説
モンゴル語説
テュルク語説
ウラル語説
エニセイ語説
多民族混合説

文化と社会

社会構造

匈奴は、単于（ぜんう）を頂点とする部族連合体でした。単于の下には、屠耆王（ときおう）、谷蠡王（こくれいおう）などの有力者がおり、領土を統治していました。彼らの社会は、軍事的な組織を基盤としており、戦時には男は皆兵士として従軍しました。

生活様式

匈奴は遊牧民であり、馬や羊などの家畜を飼育して生活していました。彼らは、穹廬（きゅうろ）と呼ばれるテント状の住居に住み、季節ごとに移動するトランスヒューマンス方式で遊牧を行っていました。また、狩猟も重要な食料源でした。農業はあまり行われていなかったとされていますが、近年の研究では、捕虜とした漢人などを用いて農耕を行っていたことも明らかになっています。

軍事

匈奴は、騎馬戦術に長けており、その軍事力は周辺諸国にとって大きな脅威でした。彼らは、弓矢を巧みに操り、迅速な機動力を活かした戦いを展開しました。また、鎧などの武具も使用していたことが、出土品から明らかになっています。

その他

匈奴は、文字を持たなかったため、自らの記録を残していません。しかし、中国の史書や考古学的発掘によって、彼らの文化や社会について徐々に明らかになりつつあります。彼らは、動物の皮革やフェルトを用いた衣服を着用し、肉や乳製品を主な食料としていました。また、シャーマニズム的な宗教を信仰していたと考えられています。

埋葬

匈奴の埋葬方法は、中国の史書によると、死者を棺と槨に安置し、金銀や衣服などを副葬品としたとされますが、封（もりつち）をしたり、樹を植えたり、喪服を着用することはなかったと記述されています。近年、モンゴルやブリヤートで発見された王侯の墓からは、漢製の副葬品とともに、遊牧民文化特有の品々も出土しています。これらの墳墓は、スキタイの墳墓クルガンとの類似点も指摘されています。

刑法

匈奴の刑法は簡素かつ厳格であり、死刑、軋刑、家財没収などの刑罰がありました。中行説は匈奴の刑法について、「法規は簡素で実行し易い」と評しています。

宗教

匈奴はシャーマニズム（薩満教）を信仰しており、上天信仰もありました。年に3回、大規模な祭祀を行っていました。

政治体制

匈奴の政治体制は、単于を中心とした部族連合体でした。単于の下には、左右の賢王や谷蠡王などがおり、領土を分担統治していました。また、単于の地位は世襲制でしたが、有力部族の合議によって選出されることもありました。

匈奴研究の現状と今後の展望

匈奴の研究は、近年ますます活発になっています。考古学の進歩によって、新たな遺物が発見され、これまで史料だけでは分からなかった匈奴の実態が明らかになりつつあります。また、遺伝子解析などの技術も活用され、民族系統や移動経路などの解明も進んでいます。今後の研究によって、匈奴の謎がさらに解き明かされることが期待されます。

匈奴は、その興亡を通じて、東アジアの歴史に大きな影響を与えた遊牧民族でした。彼らの歴史を学ぶことは、古代の社会や文化、そして民族間の交流について理解を深める上で、非常に有益です。

もう一度検索