ディアボーン砦の戦い

ディアボーン砦の戦い：米英戦争初期の悲劇

ディアボーン砦の戦いは、1812年8月15日に現在のイリノイ州シカゴ近郊で発生した、アメリカ軍とポタワトミ族インディアンとの間の戦闘です。この戦いは、アメリカ軍の退却命令後に発生し、わずか15分でインディアン側の勝利に終わりました。この悲劇的な事件は、「ディアボーン砦の虐殺」とも呼ばれています。

背景

ディアボーン砦は、1803年にアメリカ陸軍によって建設されました。当時、シカゴ周辺は未開拓の地であり、砦はアメリカ合衆国の領土拡大の前哨基地としての役割を果たしていました。砦の名前は、アメリカ合衆国陸軍長官ヘンリー・ディアボーンにちなんでいます。

1795年に締結されたグリーンビル条約により、アメリカ合衆国はシカゴ川河口を含む広大な土地を獲得しました。しかし、この地域は先住民との紛争の絶えない場所でした。ショーニー族の予言者テンスクワタワとその兄テカムセは、アメリカの侵略に対抗するために先住民の連邦を組織し、イギリスは彼らを支援しました。

1810年、ディアボーン砦の指揮官が交代し、ネイサン・ヒールド大尉が着任しました。ヒールドは当初、この任務に不満を抱いていましたが、後に地元の女性と結婚し、シカゴに定住しました。しかし、米英間の緊張が高まるにつれて、シカゴ周辺でも先住民との対立が激化していきました。

1812年4月、ウィネベイゴ族インディアンがアメリカ人開拓者を殺害する事件が発生し、緊張はさらに高まりました。これを受け、一部の住民は砦に避難し、残りの人々は自衛のために武装しました。

戦闘の経過

1812年6月、アメリカ合衆国はイギリスに宣戦布告しました。7月には、イギリス軍がマキナック砦を占領し、アメリカ軍の補給路は脅かされるようになりました。アメリカ陸軍のウィリアム・ハル将軍は、ディアボーン砦の補給が困難になることを恐れ、ヒールド大尉に砦からの退却を命じました。

8月14日、ヒールドはポタワトミ族の指導者たちと会談し、砦からの退却を伝えました。ヒールドは、砦の武器や物資をインディアンに渡す代わりに、退却を支援してもらうことを提案しましたが、その危険性を考慮し、武器などを破壊することを決意しました。

8月15日、ヒールド率いるアメリカ軍はディアボーン砦を出発し、ウェイン砦を目指しました。しかし、砦から約2.4km南の地点で、ポタワトミ族の待ち伏せに遭いました。

戦闘はわずか15分間という短時間で終わり、アメリカ軍は壊滅的な被害を受けました。ヒールドは戦況を報告する中で、インディアンが待ち伏せしていた砂丘を攻撃したが、逆に包囲され、多くの兵士や民間人が殺害されたと証言しています。また、マイアミ族はアメリカ軍のために戦ったという証言と、全く戦わなかったという証言の両方があります。

アメリカ軍の犠牲者は、正規兵26名、民兵12名全員、女性2名、子供12名に及びました。ヒールド自身を含む残りの兵士や民間人は捕虜となり、砦は焼き払われました。

戦闘後

捕虜となった人々の中には、後に身代金と引き換えに釈放された者もいましたが、一部は捕虜のまま死亡しました。ディアボーン砦が再建されたのは、1816年のことです。

ディアボーン砦の戦いは、米英戦争全体から見れば小さな戦闘でしたが、シカゴ周辺地域に大きな影響を与えました。この戦いによって、アメリカ合衆国は先住民をこの地域から排除する政策を強化し、その結果、1835年にはシカゴ条約が締結されました。ポタワトミ族などの先住民は、さらに西へと移動せざるを得なくなりました。

戦闘に関する証言と記念碑

ディアボーン砦の戦いに関する証言は、生存者によって数多く残されています。ヒールド自身や、ウォルター・ジョーダンなどの証言が記録されており、これらの証言は互いに矛盾する部分もあります。ジュリエット・マギル・キンジーの著書『ウォー・バン: 北西部の初期』は、この戦闘の伝統的な証言を伝えているとされますが、歴史的に不正確な部分もあると指摘されています。

戦闘があった場所は、現在のルーズベルト道路とミシガン・アベニューの交差点付近だとされています。また、戦闘の記念碑も複数存在します。一つは、マーガレット・ヘルムを救出したポタワトミ族の酋長ブラック・パートリッジの像で、1990年代に再度建立されました。その他にも、この戦いで戦った個人を記念するものが、ウェルズ通り、ヒールド広場、ローナン公園などに残されています。

ディアボーン砦の戦いは、アメリカ史における悲劇的な出来事の一つであり、アメリカと先住民との関係における重要な出来事として記憶されています。この戦いの歴史は、今日のシカゴの都市景観にも、その痕跡をとどめています。

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