ディエゴ・アラトリステ・イ・テノーリオ

ディエゴ・アラトリステ・イ・テノーリオ

ディエゴ・アラトリステ・イ・テノーリオ（1582年頃 - 1644年）は、スペインの作家アルトゥーロ・ペレス＝レベルテによる小説「アラトリステ隊長の冒険」シリーズに登場する架空の剣士であり傭兵です。本項では、小説におけるアラトリステの生涯と人物像について詳しく解説します。

生涯

アラトリステは、1582年頃にスペインのレオン地方で郷士の次男として生まれました。13歳で家を出て傭兵となり、オーストリア大公アルブレヒト7世に仕え、ネーデルラントへと渡ります。

1609年にはバレンシアでイスラム教徒の反乱鎮圧に参加した後、ナポリ駐留のスペイン艦隊の海兵隊兵士となります。1613年にはコンスタンティノポリスでガレー船が拿捕され、オスマン帝国の捕虜となるも、同年に解放され、1615年までスペイン艦隊に所属します。この間、ケルケナ諸島でオスマン帝国軍と戦った際、後の庇護者となるグアダルメディーナ伯爵家の跡取り息子、アルバロ・デ・ラ・マルカの命を救います。

1615年、ナポリでの痴話喧嘩が原因で傷害事件を起こし、スペイン本国に逃亡。セビージャの大聖堂に潜伏し、暗殺代行で生計を立てます。この頃、セビージャの裏社会に人脈を広げます。

その後、再びネーデルラントで傭兵となり、三十年戦争に皇帝軍として参加。1620年の白山の戦いで手柄を立てますが、1622年のフルーリュスの戦いで負傷し、マドリードへ。この時、イニゴ・バルボアを引き取って従者とします。

1624年、イングランドの皇太子チャールズ（後のチャールズ1世）とバッキンガム侯爵のスペイン訪問に端を発する宮廷の陰謀に巻き込まれます。その後、従者のイニゴが異端審問所に拘留される事件が起き、ほとぼりを冷ますため、三度ネーデルラントへ。アンブロジオ・スピノラ麾下のスペイン陸軍に入隊し、ブレダ攻城戦に参加します。

1626年、カディス経由でスペインに帰還。セビージャとサンルーカル・デ・バラメーダを舞台としたアメリカ大陸の金塊密輸事件の摘発に協力します。マドリードに戻ったアラトリステは再び暗殺代行の仕事を始めますが、当時人気を博していた女優マリア・デ・カストロを巡り、スペイン王フェリペ4世と対立します。

1627年、正式にスペイン軍に入隊したイニゴと共にナポリへ赴き、新造されたガレー船ムラタに乗り、地中海各地を転戦します。1630年代前半までマドリードに留まりますが、1634年のネルトリンゲンの戦いにはイニゴと共に参戦したとされています。

数々の冒険を重ねた後、1644年、再びカルタヘナ歩兵連隊に加わり、ロクロワの戦いで戦死しました。イニゴによれば「立ったままで息絶えていた」とのことです。

人物像

アラトリステは、当時のマドリードで最高峰の剣士の一人とされています。冷静沈着な性格であり、怒りが頂点に達すると、逆に冷静さを増し、微笑を浮かべながら相手を打ち倒すと言われています。

武器はレイピアとマンゴーシュを愛用し、白兵戦では水牛の革鎧とピストルを装備します。ブレダ攻城戦ではマスケット銃兵として戦いました。隊長というあだ名で呼ばれるものの、軍隊で正式な役職に就いたことはありません。しかし、指揮官が戦死した部隊を指揮したり、セビージャの無法者たちを率いて敵のガレオンを制圧したこともあります。

寡黙で臍曲がりな性格ですが、実は女たらしであり、傭兵でありながら教養が高く、ロペ・デ・ベガやフランシスコ・デ・ケベードなどの知識人とも交流がありました。

備考

主人公の名字は、1844年にホセ・ソリージャが書いた戯曲「ドン・ファン・テノーリオ」と、著者のメキシコ人の友人の名前を合わせたものです。

アラトリステの出身地をレオンとする設定は、映画化の際にアラトリステ役を演じたヴィゴ・モーテンセンが著者レベルテに提案したものです。


この物語は、17世紀スペインの歴史と社会を背景に、アラトリステの波瀾万丈な人生を描いています。彼の生き様を通して、当時の社会情勢や人々の価値観を垣間見ることができます。

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