ディエゴ・デ・ランダ

ディエゴ・デ・ランダ（1524-1579年）は、16世紀のスペイン人聖職者で、フランシスコ会に属し、後にユカタンの司教を務めた人物です。スペインによるアメリカ大陸の植民地化が進む黎明期において、彼は特に現在のメキシコ、ユカタン半島地域でその活動を展開しました。

1524年、スペイン中部、カスティーリャ・ラ・マンチャ地方のシフエンテスに生まれたランダは、16歳の若さでフランシスコ修道会の門を叩き、修道士としての道を歩み始めます。1549年、彼はフランシスコ修道会によってユカタンへ派遣された一団に加わり、この地で司祭に叙階されました。

イサマル修道院の院長を務めた後、1560年にはユカタンにおけるフランシスコ会の最高責任者である教区長と、重要な拠点であるメリダ修道院の院長を兼任することになります。この頃、彼は先住民であるマヤの人々に対する布教活動を積極的に行いました。

しかし、彼の活動は暗い側面も持ち合わせていました。1562年7月、ランダはマニの地で、地域の指導者を含む多数のマヤ人を対象とした異端審問を実施します。この「マニの宗教裁判」と呼ばれる出来事において、彼はマヤの人々に対して非常に残虐な尋問を行ったと伝えられています。当時の証言によれば、ランダは教会の権威を盾に、男女や子供の区別なくマヤの人々を苦しめたとされています。さらに、ランダ自身が記録しているように、彼はマヤの持つ全ての書物について、キリスト教の教えに反する迷信や悪魔崇拝に関連するものと断定し、大量に焼き捨てました。この行為により、古代マヤの絵文書は現在わずか4点しか残されていません。

同年、ユカタン初代司教であったフランシスコ・デ・トラルは、ランダの残虐な振る舞いをスペイン国王フェリペ2世に報告しました。これにより、ランダはスペイン本国に召喚され、裁判にかけられることになります。インディアス枢機会議は当初ランダを非難しましたが、1569年には意外にも無罪の判決が下されました。そして、1571年にトラル司教が死去すると、ランダがその後任としてユカタン司教に任命されることになったのです。彼は1572年に再びユカタンに戻り、司教としての務めを果たしましたが、1579年にメリダで生涯を終えました。

ランダの生涯の中で、特に後世に大きな影響を与えたのが、スペインへの帰国中に執筆された『ユカタン事物記』（Relación de las Cosas de Yucatán）です。この著作には、彼がユカタンで直接見聞きしたマヤの人々の社会構造、日常生活、文化、そして信仰に関する詳細な記録が数多く含まれています。彼のマヤ人に対する行いが批判される一方、この著作が16世紀に書かれたマヤ民族に関する唯一と言える貴重な文献であることは、歴史家や研究者にとって議論の余地のない事実です。彼はこの著作の中で、マヤの社会や文化に関する観察を客観的に記述しようと努めました。

『ユカタン事物記』の原本は失われてしまいましたが、1661年頃に作成された要約の写本が発見されました。19世紀半ば、フランスの学者シャルル・エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブールブールによってマドリードの図書館で見いだされ、1864年に原文とフランス語訳が初めて出版されたことで、その存在が広く知られるようになります。この写本には、マヤ文字とスペイン語アルファベットを対応させた一覧表（通称「ランダのアルファベット」）が含まれており、その正確性については当初議論がありましたが、後の研究で基本的な対応関係が正しいことが証明されました。特に、ソ連の言語学者ユーリー・クノロゾフがマヤ文字の本格的な解読を進める上で、この「ランダのアルファベット」は極めて重要な手がかりとなったのです。

ランダという人物に対する評価は、マヤ文明の破壊者としての側面と、その文化に関する貴重な記録を残した学者としての側面という、全く異なる二つの極の間で分かれています。彼の行為は現代においても強い批判の対象となる一方で、彼の残した著作がなければ、今日のマヤ研究は大きく遅れていたであろうこともまた事実です。彼はまさに、功罪相半ばする歴史上の人物と言えるでしょう。

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