ディスカバラー1号

ディスカバラー1号（Discoverer 1）は、冷戦期にアメリカ合衆国が進めた極秘の偵察衛星計画である「コロナ計画」において、初めて宇宙空間に送られた試験機として歴史に名を刻んでいます。この衛星は、1959年2月28日（太平洋標準時）の午前1時49分に、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地から、ソー・アジェナロケットに搭載されて宇宙を目指しました。

「コロナ計画」は、ソビエト連邦などの地上施設を宇宙から高解像度で偵察することを目的とした画期的なプロジェクトでした。ディスカバラー計画は、このコロナ計画を実現するための技術実証や初期の偵察ミッションを担うもので、ディスカバラー1号はその第一歩となる存在でした。

この衛星は、コロナ計画で後に成功を収めることになる「KHシリーズ」、特に初期型である「KH-1型」（Key Hole、鍵穴という意味）のプロトタイプとして位置づけられていました。しかし、ディスカバラー1号自体は、偵察衛星としての主要な機能である高解像度カメラや、撮影した画像を地上に回収するためのフィルムカプセルを搭載していませんでした。その目的は、計画の初期段階におけるロケットの打ち上げ能力、アジェナ上段の軌道投入性能、衛星の基本的な機能や挙動を確認することに主眼が置かれていたと考えられます。

ディスカバラー1号の飛行計画は、特に野心的なものでした。従来の衛星が比較的低緯度の軌道を目指していたのに対し、ディスカバラー1号は南極上空を通過する「極軌道」への投入を試みた、世界初の人工衛星でした。極軌道は、地球のほぼ全ての緯度上空を通過できるため、偵察衛星にとっては非常に有効な軌道です。しかし、当時の技術レベルでは、このような軌道への正確な投入は大きな挑戦であり、残念ながらディスカバラー1号はこの目標を達成することができませんでした。

打ち上げ後、衛星からの信号は途絶え、その正確な軌道や最終的な状態は不明となりました。長年にわたり、ディスカバラー1号の運命は憶測の的となっていましたが、後に機密が解除された中央情報局（CIA）の報告書によって、その顛末が示唆されています。この報告書では、ディスカバラー1号は極軌道に到達することなく、南極大陸あるいはその近辺の海域に落下した可能性が極めて高いと結論付けられています。「今日ではほとんどの人間が、ディスカバラー1号は南極近くの何処かに落下したと信じている」という報告書の記述は、計画関係者の間で広く受け入れられていた見解を反映しています。

ディスカバラー1号のミッション自体は、技術的な成功を収めたとは言えませんでした。しかし、この失敗は、極軌道投入技術や、コロナ計画を実現するために克服すべき課題を明らかにする上で重要な教訓となりました。この経験を経て、アメリカは続くディスカバラー計画やコロナ計画で技術を着実に向上させ、冷戦における情報収集活動において重要な役割を果たす偵察衛星システムを確立していくことになります。ディスカバラー1号は、その後の成功への礎となった、記念すべき第一歩と言えるでしょう。

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