ディスカバラー37号

ディスカバラー37号（Discoverer 37）は、別名コロナ9030（Corona 9030）としても知られる、1960年代初頭にアメリカ合衆国が進めていた極秘の衛星偵察計画「コロナ計画」の一環として開発された光学偵察衛星です。この衛星は、コロナ計画の中でも特に解像度の向上を目指したKH-3シリーズの最終モデルとして位置づけられていました。その主たる目的は、冷戦下のソビエト連邦をはじめとする潜在的な敵対国の軍事施設や戦略拠点などを、宇宙空間から高精度で撮影し、詳細な情報を収集することにありました。

この重要な偵察衛星の打ち上げは、1962年1月13日にカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地から実施されました。打上げには、当時のアメリカの標準的な宇宙ロケットの一つであったソー DM-21 アジェナ-B型が使用されました。しかし、残念ながら打上げプロセス中にロケットの軌道投入能力に問題が発生し、計画された低軌道への到達に失敗しました。この結果、ディスカバラー37号は所期の軌道に乗ることができず、機体は失われ、その偵察任務を遂行することなく終わりました。

ディスカバラー37号は、低軌道での運用が計画されており、機体の質量は約1150kgとされていました。衛星の心臓部とも言える偵察観測装置としては、高性能なパノラマカメラが搭載される予定でした。このカメラは、61cmという比較的長い焦点距離を持ち、最大で7.6メートルという高い地上解像度を達成することが期待されていました。これにより、地上にある比較的小さな対象物でも識別可能なレベルでの情報収集が可能になると見込まれていました。

当時の宇宙からの画像情報収集技術において、最大の課題の一つは、取得した高解像度データをいかに地上に伝送するかという点でした。デジタル通信技術がまだ発展途上だったこの時代、大量かつ高解像度の画像データを電波で送信することは困難でした。そのため、コロナ計画では、撮影された画像を70mm幅の特殊な写真フィルムに記録するという方式が採用されていました。

さらに、このフィルムを地上で分析するためには、物理的に回収する必要がありました。ディスカバラー37号の運用計画においても、撮影任務を終えた後、撮影済みのフィルムが収められたカプセル（衛星回収機 SRV-571）を衛星本体から分離し、単独で大気圏に再突入させるという画期的な方法が採用されていました。再突入したカプセルは、パラシュートを開いて降下し、空中で待機していた専用の回収用航空機によってキャッチされるか、あるいは海上着水後に艦船によって回収される予定でした。このフィルム回収プロセスは、コロナ計画の成功に不可欠な要素であり、当時の宇宙技術の粋を集めたものでした。

ディスカバラー37号の打上げ失敗と機体の喪失は、KH-3シリーズ、そしてコロナ計画の一部にとって痛恨の出来事でした。しかし、この経験もその後の衛星開発や打上げ技術の改善に活かされ、コロナ計画全体としては後継機によって大きな成果を上げ、冷戦期におけるアメリカの情報優位性の確立に貢献していくことになります。ディスカバラー37号自身は実任務に就くことはありませんでしたが、その設計や計画された先進的な運用コンセプトは、当時の偵察衛星技術の発展段階を示す貴重な事例と言えます。

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