ディディウス・ユリアヌス

ディディウス・ユリアヌス：66日間の皇帝

マルクス・ディディウス・セウェルス・ユリアヌス。193年、わずか66日間ローマ帝国の皇帝の座に就いた人物である。彼の短い治世は、五皇帝の年と呼ばれる混乱の時代の象徴的な出来事として、歴史に刻まれている。

高貴な出自と華麗な経歴

ユリアヌスは、名家セウェルス家の出身。父は将軍、母はアフリカ属州に移民した上流貴族の末裔であり、皇帝マルクス・サルウィウス・オットとも親戚関係にあった。恵まれた環境で育ち、宮廷にも出入りし、マルクス・アウレリウス帝の母であるドミティア・ルキッラにも可愛がられたと伝えられている。

若い頃から頭角を現し、異例のスピードで出世。財務官、造営官などを歴任し、162年には法務官に叙任。その後、軍の指揮官として活躍し、カウキー族やカッティ族を討伐するなど、数々の軍功を挙げた。ガリア・ベルギカ総督を務めた後、ダルマチア、低地ゲルマニアの総督職にも就いた。総督として蓄えた莫大な財産を貧しい民衆に分け与えるなど、民衆からの支持も厚かったとされる。

コンモドゥス帝の時代には、政敵から暗殺未遂の嫌疑をかけられるも、潔白を証明し、逆に政敵が処罰されるという出来事もあった。その後、ビテュニア総督、アフリカ総督を歴任し、着実にキャリアを積んでいった。

帝位競売と民衆の反発

193年、コンモドゥス帝が暗殺され、後を継いだペルティナクス帝も短期間で暗殺されるという混乱の中で、ユリアヌスは皇帝の座に就くことになる。しかし、その方法は前代未聞のものだった。ペルティナクス帝の死後、後継者選びは近衛隊による「帝位競売」という異様な形で行われたのだ。

ユリアヌスは競売会場に到着するまでに時間を要し、既に門が閉ざされていたため、外から声を張り上げて競売に参加した。競争相手であったスルピキアヌスとの激しい入札合戦の末、2万5000セルティウスという高額の入札で勝利し、皇帝に選ばれた。

しかし、この帝位競売は民衆の怒りを買った。金で買った皇帝など認められないという強い反発を受け、ユリアヌスは常に民衆からの陰口や投石にさらされることとなる。

反乱と悲劇の最期

民衆の支持を失ったユリアヌス帝の地位は、各地の将軍たちにとって付け入る隙となった。シリア総督ペスケンニウス・ニゲル、ブリタニア総督クロディウス・アルビヌス、パンノニア総督セプティミウス・セウェルスらが相次いで反乱を起こす。

ユリアヌスはセウェルスを特に警戒し、元老院に彼を「国家の敵」に指定させた。近衛隊の再訓練を行うなど必死に抵抗を試みるも、堕落した近衛隊はセウェルス軍に敗北。セウェルスはアルビヌスと密約を結び、ローマへと進軍してきた。

窮地に陥ったユリアヌスはセウェルスとの共同統治を提案するが、それは拒絶された。近衛隊もセウェルス側に寝返り、元老院はユリアヌスを皇帝の座から引きずり下ろす。193年6月1日、ユリアヌスは近衛隊によって暗殺される。彼の最期の言葉は「私が何をした？…私が誰を殺したというのだ」だったという。

短い治世を終えたユリアヌスの死は、五皇帝の年の混沌を象徴する出来事として、後世に語り継がれることとなった。彼の生涯は、権力と名誉、そして悲劇の物語として、今も人々の心に影を落としている。

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