ビテュニア

ビテュニア：歴史と地形、そして繁栄の軌跡

ビテュニアは、現在のトルコ北西部に位置する歴史的な地域で、古代には王国として、その後はローマ帝国の属州として重要な役割を果たしました。マルマラ海、トラキア、ボスポラス海峡、そして黒海に面したこの地は、その地理的特徴と肥沃な土地から、古くから人々の生活と文化が育まれてきました。

地勢：山と肥沃な土地

ビテュニアの地形は多様で、大部分が山と森林で覆われていますが、谷間や沿岸部には肥沃な土地が広がっています。特に、ブルサにそびえるウル・ダー（旧称ミュシアのオリンポス）は、標高2,543メートルを誇り、その山頂は一年を通して雪に覆われています。この山は、遠く離れたイスタンブールからも望むことができ、ビテュニアの象徴的な存在です。

プロポンティス海（現在のマルマラ海）沿岸は、肥沃な地域であり、ニコメディア（現イズミット）、カルケドン、キオス（現ゲムリク）、アパメアなどの重要な都市が発展しました。また、ニカイア信条が定められたことで知られるニカイア（現イズニク）も、ビテュニアの重要な都市の一つです。

ビテュニアの東側はパフラゴニアと接しており、その境界はサンガリウス川（現サカリヤ川）またはパルセニウス川（現バルトゥン川）とされています。南側はフリギア、エピクテトス、ガラティアと隣接し、西部は丘陵地帯でボスポラス海峡まで広がっています。南西の境界はリンダクス川で、ミュシアと接していました。

海岸線には、黒海に近いイズミット湾と、キオスに通じるムダンヤ湾の二つの深い入り江があります。これらの入り江は、内陸部への交通路として重要な役割を果たしました。

主要な河川としては、南から北に流れるサンガリウス川、リンダクス川、ビラエウス川があり、特にビラエウス川は、全長150キロメートル以上で、黒海に注ぎ込んでいます。これらの河川は、地域の灌漑や交易に重要な役割を果たしました。黒海に続く谷間は、オレンジなどの果物の栽培に適し、サンガリウス盆地やブルサ、ニカイア周辺の平野は、農業が盛んな地域でした。特に、ブルサでは養蚕が盛んで、高品質な絹の生産地として知られていました。

歴史：王国からローマ属州へ

古代の文献によると、ビテュニアはトラキア人の移住によって形成されたとされています。ビテュニ族とティニ族が小アジアに移住し、先住民族を追放または征服し、この地に定住しました。その後、ビテュニアはリディア王国やアケメネス朝ペルシアの支配下に置かれましたが、バス王の時代に独立を果たしました。

バス王とその息子ジポイテス1世は、アレクサンドロス大王の遠征にも屈せず、独立を維持しました。ジポイテス1世は紀元前297年に王の称号を名乗り、その後のニコメデス1世の時代には、首都としてニコメディアが建設され、繁栄を極めました。ニコメデス1世の後、プルシアス1世、プルシアス2世、そしてニコメデス2世の時代には、ビテュニア王国はアナトリア半島で有力な王国の一つとして繁栄しました。プルシアス1世は、ローマから追われたハンニバルを匿ったことでも知られています。

しかし、最後の王ニコメデス4世はポントス王ミトリダテス6世に敗れ、後にローマの力を借りて王位を回復しましたが、紀元前74年に亡くなると同時に、ビテュニアをローマに遺贈しました。

ローマの支配下に入ったビテュニアは、属州として編入され、ポントスと合わせて一つの属州とされることが多かった。110年頃、トラヤヌス帝の時代に小プリニウスが総督を務めた際、トラヤヌス帝との往復書簡は、ローマ帝国の属州行政を伝える貴重な資料となっています。東ローマ帝国の時代には、ビテュニアは再びサカリヤ川を境に二つに分割され、その名前は西側の属州として残りました。

ビテュニアは、ドナウ川国境とユーフラテス川国境の中間に位置する戦略上重要な場所であり、主要な街道も通っていたため、ローマ帝国にとって重要な役割を果たしました。軍団がしばしばニコメディアで越冬したことも、その重要性を示しています。

主要都市は、アレクサンドロス大王以降に建設されたニコメディアとニカイアで、どちらが州都であったかは議論が分かれています。また、ボスポラス海峡近くには、ギリシア人によって建設されたキオスやカルケドンなどの植民都市があり、黒海沿岸にはヘラクレア・ポンティカがありました。これらの都市は商業が盛んで、ビテュニアの経済発展を支えました。イズミットやユスキュダル（旧スクタリ）などは、現在も重要な都市として発展を続けています。

ビテュニア王国歴代君主

ジポイテス1世（Zipoites I）：紀元前328年 - 紀元前279年
ニコメデス1世（Nicomedes I）：紀元前279年 - 紀元前255年
ジポイテス2世（Zipoites II）：紀元前279年 - 紀元前276年
エタゼタ（Etazeta）：紀元前255年
ジアエラス（Ziaelas）：紀元前255年 - 紀元前228年
プルシアス1世（Prusias I）：紀元前228 - 紀元前185年
プルシアス2世（Prusias II）：紀元前185 - 紀元前149年
ニコメデス2世（Nicomedes II）：紀元前149 - 紀元前128年
ニコメデス3世（Nicomedes III）：紀元前128 - 紀元前94年
ニコメデス4世（Nicomedes IV）：紀元前94 - 紀元前74年


ビテュニアは、その豊かな自然と歴史的背景から、古代世界の重要な一部を担っていました。その繁栄の歴史は、現代に生きる私たちに多くのことを教えてくれます。

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