ディレイ (音響機器)

ディレイ（Delay）とは

ディレイとは、反響音をシミュレートする空間系エフェクターの一種です。原音に対して時間差をつけて再生することで、残響や奥行きといった効果を生み出します。

歴史と進化

ディレイは、初期にはテープを使用したアナログ式から始まりました。その後、遅延素子を利用したものが主流となり、デジタル回路の登場によって、飛躍的に進化を遂げました。デジタルディレイは、短時間ながらも実際の音声をサンプリングし、設定された時間や回数で再生する方式を採用しています。周波数や再生速度を変化させる機能も搭載され、より複雑で多様な音響効果を実現できるようになりました。

リッチー・ブラックモアやブライアン・メイといった著名なギタリストたちは、1970年代にテープエコー（テープレコーダーを改造したもの）を駆使して、独特なサウンドを追求していました。実音を数秒以上リピートできるようになったことで、より創造的な音作りが可能になったのです。

デジタルディレイの可能性

デジタルディレイの中には、初期反響音や残響音を細かく設定できる機種も存在します。これにより、リアルな残響をシミュレートしたり、音に深みや広がりを加えたりすることができます。ギターだけでなく、あらゆる楽器やボーカルにも使用され、その用途は多岐にわたります。

ディレイは、エコーやリバーブの代用としても使用されます。反響音や残響音は、比較的クリアな音像を保ちながらも、人工的な質感が加わります。しかし、操作次第では、ステレオ効果を生み出したり、ユニゾンで演奏しているかのような効果を作り出すことも可能です。また、ハーモナイズを意識した演奏方法と組み合わせることで、一人二重奏（時には三重奏）といった特殊な効果も得られます。

ディレイによる効果のバリエーション

ディレイは、設定や使い方によって様々な効果を生み出すことができます。

ダブリング
数十msec程度の短いディレイを原音と同レベルでミックスすることで、楽器の音を太く、存在感のあるサウンドにすることができます。あたかも同じパートを2人で演奏しているかのような効果が得られます。
ショート・ディレイ
数十〜百数十msec程度のディレイを原音よりも小さめのレベルでミックスすることで、自然な残響を付加することができます。音に奥行きと広がりを与え、豊かな響きを作り出します。
ミックス時の使用
音に聴感上の遠近感を演出する際に使用されます。例えば、バスドラムやエレクトリックベース、リードボーカルを前方へ、キーボードやコーラスを後方へ配置することで、奥行きのあるサウンドスケープを作り出すことができます。
PA（パブリックアドレス）での使用
数ミリ秒のディレイを使用することで、ハウリングを抑制することができます。ライブ会場やイベントなど、音響環境が不安定な場所で有効なテクニックです。

まとめ

ディレイは、単なる反響効果だけでなく、音に深みや広がりを与えたり、特殊な効果を生み出したりすることができる、非常に汎用性の高いエフェクターです。様々な楽器やボーカルに活用できるだけでなく、ミックスやPAの現場でもその効果を発揮します。ディレイを使いこなすことで、あなたのサウンドはより一層豊かになるでしょう。

参考文献

* デイヴ・ハンター『ギター･エフェクター実用バイブル　自分らしいサウンドを出すために　歴史と基本原理、接続&トーン攻略まで［改訂拡大版］』（DU BOOKS、2014年）ISBN 978-4-925064-74-3

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