ディーノ・コンパーニ

ディーノ・コンパーニ：動乱のフィレンツェを生きた商人・政治家・年代記作家

ディーノ・コンパーニ（1255年 - 1324年2月26日）は、中世イタリア、特にフィレンツェの激動期を生きた人物です。彼は商人、政治家、そして年代記作家として、多岐にわたる足跡を残しました。

生涯

コンパーニは、フィレンツェの名門市民の家に生まれました。商人としてポル・サンタ・マリア組合に登録され、青年時代には当時の教養としてラテン語、スコラ哲学、プロヴァンス語、フランス語などを習得。また、彼は清新体の詩人としても知られ、グイード・カヴァルカンティ、ダンテ・アリギエリ、チーノ・ダ・ピストイアらと並び称されました。

1280年に組合名簿に初めて名前が登場し、以降1320年までその名が記されています。彼は1282年、1286年、1289年、1291年、1294年、1296年に組合理事に選出されました。1282年には、25歳という若さで市政改革委員に抜擢され、代表委員制の創設に参画するなど、初期から政治的な才能を発揮しました。その後も、市政顧問としてフィレンツェ政界で重要な役割を担い、1294年には法制改革委員、1390年には税制改革委員に指名されています。

ディーノの政治活動において最も重要なのは、2度の代表委員（1289年4月15日 - 6月15日、1301年10月15日 - 11月7日）と「正義の旗手」への就任（1293年6月15日 - 8月15日）です。当時のフィレンツェは、チェルキ家を中心とする白派とドナーティ家を中心とする黒派の抗争が激化しており、両派はそれぞれ教皇派と皇帝派という国外勢力と結びついていました。1293年には、ディーノの友人であったジアノ・デッラ・ベッラによって「正義の法令」が発布され、封建貴族が中心であった黒派に打撃を与えました。しかし、ディーノ自身は公正な愛国者として、党派の利益よりも両派の和解を願っていました。その結果、黒派を支持する教皇ボニファティウス8世やシャルル・ド・ヴァロワにつけ込まれ、「剣を磨くべき時に和平交渉の意志を相手に伝えて」しまったことが、白派の敵には弱気と恐怖の行動とみなされました。1301年、シャルル・ド・ヴァロワが1200騎を率いてフィレンツェに入城し、黒派の巨頭コルソ・ドナーティが市政を掌握。その年の11月には代表委員が総辞職し、ディーノの名前が公文書に再び登場することはありませんでした。白派は数年にわたってフィレンツェから粛清・追放されましたが、ディーノは前代表委員としての特権を盾に、追放を免れました。その後は私人として、商事会社・問屋の所有者として羊毛組合に登録され、およそ70歳で亡くなり、サンタ・トリニタ教会に埋葬されました。

年代記

ディーノ・コンパーニは、1310年から1312年にかけて、フィレンツェを襲った危機の様子を『年代記』に書き残しました。この年代記の中で、ディーノは事件の当事者、そして傍観者として登場し、国内分裂による損害や、黒派・白派が犯した犯罪行為を弾劾しています。特に、フィレンツェの破局を招いたボニファティウス8世、シャルル・ド・ヴァロワ、コルソ・ドナーティといった人物については、容赦ない筆致で描かれています。

イタリアの批評家デ・サンクティスは、同時代の年代記作家ヴィラーニと比較して、「ヴィラーニたちは、財産目録でも作っているような落ち着いた無関心さで物語っているのに対して、ディーノとダンテは短剣で歴史を刻んでいる。表面的なことで満足する人はヴィラーニを読みたまえ。だが、事件を生む原因となった情熱、気風、内面生活などを知りたいと思う人は、ディーノを読みたまえ。」と述べ、ディーノの年代記を高く評価しました。

ディーノ・コンパーニの年代記は、単なる歴史記録にとどまらず、当時のフィレンツェ社会の情熱、葛藤、そして人々の内面を描き出した貴重な資料として、今日でも高く評価されています。

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