ディーノ・ブッツァーティ

ディーノ・ブッツァーティは、1906年に北イタリアのサン・ペレグリッノで生まれました。父親は国際法の教授、母親は獣医という家庭環境で育ち、兄弟には著名な遺伝学者もいます。ミラノ大学で法学を修めた後、ジャーナリストとして「コリエーレ・デラ・セラ」紙に入社。校正部から始まり、レポーター、特派員、エッセイスト、編集者、批評家と多岐にわたる役割を担い、その経験が彼の文学作品にリアリティと独特の視点をもたらしました。

ブッツァーティは、自身の作品について「空想や夢想は、新聞記事のように平易な言葉で語られるべきだ」と述べています。この言葉通り、彼の作品は、幻想的な内容でありながらも、読みやすく、現実味を帯びているのが特徴です。1933年に処女小説『山のバルナボ』を発表しますが、当初はあまり注目されませんでした。しかし、第二次世界大戦中に従軍記者として体験した出来事が、彼の作風に大きな影響を与え、戦後発表した『タタール人の砂漠』によって、一躍、批評家から高い評価を得るようになります。この作品は、実存主義的なテーマを扱い、カミュの『シーシュポスの神話』と比較されることもあります。

ブッツァーティの作品は、小説、短編、童話、戯曲、詩、評論と多岐にわたります。代表作としては、長編小説『タタール人の砂漠』の他に、『古森の秘密』『偉大なる幻影』『ある愛』などがあり、短編集としては、『七人の使者』が有名です。短編小説では、日常に潜む不条理や、人間の心理を巧みに描き出し、読者を幻想的な世界へと誘います。また、童話『シチリアを征服したクマ王国の物語』は、子供から大人まで楽しめる作品として、世界中で愛されています。さらに、マンガ「コミックの素晴らしさ」では、自身の芸術的才能を遺憾なく発揮し、オルフェウスの神話をベースにした斬新な作品を創作しました。

彼の作品の特徴として、しばしば「魔術的現実主義」や「社会的疎外」といった言葉で語られます。環境問題や技術の進歩に対する警鐘も、彼の作品の重要なテーマです。想像上の生き物や、自ら発明したキャラクター「コロンブレ」が登場する短編小説は、ブッツァーティ独特の世界観を象徴しています。

ブッツァーティは、1958年に短編集『Sessanta racconti』でストレーガ賞を受賞するなど、作家としての名声を確立しますが、1972年に癌で亡くなりました。彼の作品は、現在も多くの読者に愛され、その影響は現代の文学作品にも見られます。邦訳も数多く出版されており、『タタール人の砂漠』をはじめ、多くの作品が日本の読者にも親しまれています。ディーノ・ブッツァーティは、20世紀イタリア文学において、独自の境地を切り開いた偉大な作家の一人として、その名を永遠に刻むでしょう。

主な作品は以下の通りです。

長編小説
『山のバルナボ』(1933)
『古森の秘密』(1935)
『タタール人の砂漠』(1940)
『偉大なる幻影』(1960)
『ある愛』(1963)

短編集
『七人の使者』(1942)
『スカラ座の恐怖』(1949)
『バリヴェルナ荘の崩壊』(1954)
『Sessanta racconti』(1958)
『海獣コロンブレ』(1966)

童話
* 『シチリアを征服したクマ王国の物語』(1945)

これらの作品を通して、ブッツァーティの独特な世界観をぜひ体験してみてください。

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