デイビッド・バス

デイビッド・M・バス

1953年4月14日生まれのアメリカ合衆国の心理学者、デイビッド・M・バスは、進化心理学という比較的新しい学問分野において、人間の心理と行動、特に恋愛や性、対人関係における性差が進化の過程でどのように形成されたのかを探求する研究者として世界的に知られています。彼の研究は、ヒトの心の仕組みを理解する上で、進化の視点がいかに重要であるかを示しています。

経歴

バス氏は、学術的なキャリアの初期段階でカリフォルニア大学バークレー校に進み、1981年に心理学の博士号を取得しました。その後、ハーバード大学で4年間、ミシガン大学で11年間教鞭を執るなど、著名な教育研究機関を渡り歩き、現在はテキサス大学オースティン校で心理学教授を務めています。そのキャリアは、進化心理学が心理学界で徐々に認知され、発展していく過程と重なっています。

主な研究分野

バス氏の研究の中心にあるのは、「ヒトの心と行動は、生存と繁殖を最大化するために進化してきた適応の産物である」という進化心理学の根本的な考え方です。彼はこの視点から、人間の複雑な社会行動や感情を分析しています。

具体的な研究テーマは非常に多岐にわたり、以下のような領域が含まれます。

配偶戦略: パートナーを選ぶ際の男女間の異なる戦略や基準、短期的な関係と長期的な関係の違いなど。
性的対立: 男女間で生じる性的な利害の不一致や葛藤のメカニズム。
地位と評判: 集団内での地位の獲得や維持、他者からの評価を気にする心理の進化的な背景。
嫉妬感情: 恋愛関係における嫉妬が、パートナーの喪失を防ぐために進化してきた適応であるという側面。
殺人: 人間における殺人という極端な行動が、特定の進化的な状況下で有利になりうる可能性。
殺人への対抗戦略: 殺人のリスクを回避したり、被害から身を守ったりするための心理的・行動的メカニズム。
ストーキング: 近年取り組んでいるテーマであり、拒絶された後の配偶行動の一形態として進化的な視点から分析しています。

これらの研究を通じて、彼は人間の行動の根底にある普遍的な心理メカニズムを進化という長期的なタイムスケールで明らかにしようとしています。

業績と著作

デイビッド・M・バス氏は、学術誌に200本以上の科学論文を発表しており、その学術的な貢献は高く評価されています。若手研究者への貢献に対して贈られるアメリカ心理学会の科学賞をはじめ、数多くの賞を受賞しています。

また、彼の功績は学術界に留まらず、進化心理学の知見を一般の人々に広く伝えるための啓蒙活動にも力を入れています。多数の一般向け科学書を執筆しており、特に以下の著作は大きな反響を呼びました。

『女と男のだましあい：ヒトの性行動の進化』（原題：The Evolution of Desire）: 人間の配偶行動における男女間の根本的な違いを進化的な適応として詳細に分析した代表作であり、世界中で翻訳され、多くの人々に読まれています。
『危険な熱情』（原題：The Dangerous Passion）: 恋愛関係における嫉妬という強烈な感情に焦点を当て、それが人間の関係性においてどのような機能や役割を果たしてきたのかを進化的な視点から掘り下げています。
『殺してやる：止められない本能』（原題：The Murderer Next Door）: 人間における殺人の行動パターンや心理メカニズムを進化的な文脈で捉え直し、新たな理論を提示した著作です。殺人というタブー視されがちなテーマに科学的な光を当てています。
『進化心理学：新しい心の科学』（原題：Evolutionary Psychology: The New Science of the Mind*）: この分野の標準的な教科書として広く用いられており、進化心理学の基礎から応用までを網羅しています。版を重ねており、最新の研究成果も取り入れています。

これらの著作は、進化心理学が人間の行動や感情の理解にいかに役立つかを示しており、多くの分野の研究者だけでなく、一般読者にも大きな影響を与えています。デイビッド・M・バス氏は、その先駆的な研究と分かりやすい情報発信を通じて、進化心理学を現代心理学における重要な潮流の一つとして確立する上で、極めて重要な役割を果たしている研究者と言えるでしょう。

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