デイマン博士の解剖学講義

レンブラント・ファン・レインの傑作：「デイマン博士の解剖学講義」

[レンブラント・ファン・レイン]は、17世紀オランダ黄金時代の巨匠として知られる画家です。彼の代表作の一つに「デイマン博士の解剖学講義」(1656年)があります。この絵画は、集団肖像画として、解剖学講義の緊迫感と、人々の様々な感情をリアルに捉えています。

作品の概要

「テュルプ博士の解剖学講義」から約4半世紀後に制作された本作は、ヤン・デイマン博士(1619-1666)が死体の脳切除を実演する様子を描いています。1656年、デイマン博士が初めて解剖学の実演を行ったことに合わせ、レンブラントに制作が依頼されたと推測されます。

元々は4メートル近い大作で、博士と7人の見学者たちが描かれていましたが、1723年の火災で大きな損傷を受け、現在の大きさとなりました。現在、作品に残っているのは、解剖される死体、デイマン博士、そして助手の外科医ヒスベルト・カルコーン(1621-1664)の姿だけです。

解剖台に横たわる死体は、誇張された前面短縮法によって描かれており、鑑賞者に臨場感を与えます。この手法は、マンテーニャの「死せるキリスト」と類似しており、レンブラントが版画を通してマンテーニャの作品に接していた可能性が示唆されます。

モデルとなった人物

解剖された死体は、ヨーリス・フォンテイン(1633/34-1656)という人物です。彼は窃盗常習犯で、絞首刑に処せられました。フランドル出身で、仕立て屋として働き、オランダ東インド会社にも勤務した経験を持っていました。アムステルダムで窃盗を行い逮捕され、1656年1月27日に絞首刑が執行されました。処刑後、彼の遺体は3日間、外科医の訓練のために使用されました。準備素描には、彼が窃盗に使用したナイフが頭上に置かれている様子が描かれています。

作品の現状と意義

「デイマン博士の解剖学講義」は、1985年から1994年までアムステルダム市からアムステルダム国立美術館に寄託され、1994年以降はアムステルダム博物館に所蔵されています。火災と切断という歴史的経緯を経ていますが、レンブラントの卓越した技量と、当時の解剖学講義の様子を伝える貴重な資料として、現在も高い評価を得ています。

関連作品

レンブラント：「テュルプ博士の解剖学講義」
マンテーニャ：「死せるキリスト」

参考文献

* 井上靖・高階秀爾編集『カンヴァス世界の大画家 16 レンブラント』、中央公論社、1982年

この絵画は、単なる解剖学講義の記録にとどまらず、人間の生死、罪と罰、そして知識への探求といった、普遍的なテーマを問いかける力強い作品です。レンブラントの繊細な筆致と、劇的な構図は、今もなお見る者を魅了し続けています。

もう一度検索