デオンテイ・ワイルダー

アメリカ合衆国アラバマ州タスカルーサ出身のプロボクサー、デオンテイ・ワイルダー（Deontay Wilder、1985年 10月22日生）は、元WBC世界ヘビー級王座に君臨し、「銅の爆撃機（The Bronze Bomber）」という異名で広く知られています。この愛称は、彼が北京オリンピックで獲得した銅メダルと、伝説的なヘビー級王者ジョー・ルイスの愛称「褐色の爆撃機（The Brown Bomber）」を掛け合わせたものです。現在は、かつての対戦相手であったマリク・スコットをトレーナーに迎えています。

生い立ちとボクシングへの道

高校卒業後、大学でアメリカンフットボールまたはバスケットボール選手になることを夢見ていましたが、19歳で恋人を妊娠させたこと、そして生まれた娘が脊椎の難病を抱えていたことが、彼の人生の転機となりました。学業不振もあり、大学入学を断念せざるを得なかったワイルダーは、コミュニティ・カレッジに進むも、娘の医療費と生活費を稼ぐため中退。トラック運転手やレストランでの掛け持ち勤務で家計を支えました。

こうした困難の中で、20歳の時に偶然、近所のボクシングジムでグローブを握ることになります。ボクシングに活路を見出したワイルダーは、アマチュアで頭角を現し、2007年にはナショナル・ゴールデングローブと全米選手権でヘビー級優勝を果たしました。そして2008年、北京オリンピックにアメリカ代表として出場。準決勝で敗れはしたものの、ボクシングチーム唯一となる銅メダルを獲得しました。アマチュア戦績は24戦21勝3敗という記録を残し、これを機にプロへの転向を決意します。

プロキャリア：KOキングの誕生

プロ転向後、オスカー・デ・ラ・ホーヤ率いるゴールデンボーイ・プロモーションズと契約を結び、2008年11月にプロデビュー。デビュー戦からTKO勝利を収め、以降も圧倒的なパワーで相手をリングに沈め続け、連続KO勝利を量産しました。2012年にはWBCアメリカ大陸ヘビー級王座を獲得し、地域タイトルを堅守します。

2015年1月17日、デビューから32連続KO勝利の記録を保持したまま、WBC世界ヘビー級王者バーメイン・スタイバーンに挑戦。この試合ではKOこそ逃したものの、12ラウンドを戦い抜き、大差の判定勝利で悲願の世界王座を獲得しました。アメリカ人として9年ぶりのヘビー級世界王者誕生は大きな注目を集めました。

WBC王者としての防衛ロード

世界王座獲得後、ワイルダーはKO劇を再び展開し、次々と防衛に成功します。エリック・モリーナ、ヨハン・デュオパ、アルツール・スピルカといった挑戦者を強打で退け、そのパワーを見せつけました。特にスピルカ戦での失神KOは衝撃を与え、多くのファンを熱狂させました。

しかし、この時期にはドーピング問題や訴訟問題にも巻き込まれます。指名挑戦者アレクサンデル・ポベトキンとの対戦が相手のドーピング違反で中止となり、プロモーターとの間で訴訟合戦となりました。また、自身もクリス・アレオーラ戦で拳や上腕二頭筋を負傷し、長期離脱を余儀なくされるなど、リング外での試練も経験しています。

復帰戦となったジェラルド・ワシントン戦、そして因縁のバーメイン・スタイバーンとの再戦では、いずれもKO勝利で王座を守りました。特にスタイバーンとの再戦では初回KOという圧倒的な決着を見せました。

ルイス・オルティスとの激戦とタイソン・フューリーとの伝説

WBC王者時代、ルイス・オルティスとは2度対戦しています。最初の対戦はオルティスのドーピング問題で一度中止となりましたが、後に実現。苦戦しつつも終盤にTKO勝利を収め、強豪相手にタフネスと決定力を見せつけました。2度目の対戦でも、劣勢ながらも一撃の右ストレートで劇的なKO勝利を飾り、「銅の爆撃機」の破壊力を改めて証明しました。

そして、彼のキャリアにおいて最も重要なライバルとなったのがタイソン・フューリーです。2018年12月の初対戦では、ワイルダーが2度のダウンを奪いながらも、フューリーの粘り強さと巧さに阻まれ、結果は引き分けとなりました。この試合はヘビー級の歴史に残る激闘として語り継がれています。

2020年2月の再戦は、ワイルダーにとって初めての、そして大きな挫折となりました。フューリーの猛攻に防戦一方となり、セコンドがタオルを投入してTKO負け。プロ初黒星を喫し、長年守り続けたWBC王座を失いました。試合後、彼は重い入場コスチュームが脚の動きを妨げたことや、セコンドのタオル投入に対する不満を表明し、ヘッドトレーナーを解雇するなど、後味の悪い結果となりました。

再戦条項を行使したワイルダーは、新型コロナウイルスの影響や訴訟問題を挟みながらも、2021年10月にフューリーとの第3戦に臨みます。再びダウンを奪い合う壮絶な打撃戦となりましたが、最終的にはフューリーのパワーに屈し、11回KO負けを喫しました。

王座陥落後のキャリアとリング外での話題

フューリーに連敗し王座を失ったワイルダーですが、2022年10月には復帰戦でかつての友人ロバート・ヘレニウスを初回KOで下し、健在ぶりをアピールしました。試合後の記者会見では、KOされたヘレニウスを気遣い、ボクシングの危険性について涙ながらに訴えかける場面もありました。

しかし、その後のキャリアは厳しいものとなっています。2023年12月にはジョセフ・パーカーにまさかの判定負け。圧倒的有利と見られていた予想を裏切る敗北により、アンソニー・ジョシュアとのビッグマッチ計画が頓挫しました。さらに2024年6月には張志磊にもKO負けを喫し、ヘビー級トップ戦線での地位が危ぶまれています。

また、ワイルダーはリング外でのトラブルも度々報じられています。過去には暴行容疑やマリファナ所持で逮捕歴があり、近年では婚約者からの家庭内暴力に関する訴えにより、接近禁止命令が認められるなど、プライベートでの問題も抱えています。

一方で、彼は敬虔なクリスチャンであり、牧師である父と祖母の影響を受けています。8人の子供の父親でもあり、家族への深い愛情を示しています。

戦績

アマチュア：24戦 21勝 3敗
プロ：48戦 43勝 (42KO) 4敗 1分

獲得タイトル

WBCアメリカ大陸ヘビー級王座
WBC世界ヘビー級王座（防衛10）

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