デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて

『デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて』：愛と暴力の楽園

1986年、フランスで公開されたフランシス・ジロー監督作品『デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて』（日本では『地獄に堕ちて』の邦題でDVD化）。デイビッド・グーディスの小説を原作とするこの映画は、ハイチの美しいリゾート地を舞台に、中年作家アランと若い妻ローラ夫婦の破滅的な関係を描いています。

アランはスランプに陥り、アルコール依存に苦しんでいます。一方、ローラは夫に冷淡で、ホテルの客と関係を持ちますが、心の満たされない空虚を抱えています。過去にパリのメトロ駅で襲われたトラウマも、彼女の心に影を落としています。

そんな夫婦の危機は、ある夜、悲劇的な事件を引き起こします。酒に酔ったアランは、金を無心してきた男を殺してしまいます。ローラは、気力のない夫に代わり、血の付いた衣類を焼却処分します。

事件後、事件を目撃し、凶器を持っていると主張するハイチ人テオフィルと、婚約者のリュセットが、アランとローラのもとに現れます。彼らは、アランが犯した罪を握り、ローラと危険な取引を始めます。ローラは、アランが殺した男と自分が関係を持っていたことを明かし、アランに事件への関与を迫ります。

アランは警察署長に自首しようとしますが、取り合ってもらえません。一方、ローラはホテルの客から、事件の証拠となる装身具を高値で買い取らせ、その後、証拠を海に捨ててしまいます。

アランはテオフィルの家を訪れますが、そこでローラとリュセットの取引を知り、激しい争いが勃発します。アランは、自分が殺人者であることを証明しようとテオフィルを警察に連れて行こうとしますが、乱闘となり、両者とも負傷します。

ローラは夫の安否を案じていましたが、アランから助けを求める電話を受けます。病院で再会したローラは、過去のトラウマが引き起こした衝撃の告白をします。彼女がかつて襲われかけた男を、その男の刃物を使って殺害したというのです。

この映画は、夫婦間の崩壊、暴力、贖罪、そして過去のトラウマが複雑に絡み合った、衝撃的な物語です。ソフィー・マルソー演じるローラは、魅力的な反面、冷酷で計算高い一面も持ち合わせ、観客を惹きつけます。

クロード・ブラッスール演じるアランは、弱く、アルコール依存症に苦しむ、哀れな男として描かれています。彼らがハイチの楽園で繰り広げる愛と暴力の物語は、観る者の心に深い衝撃と余韻を残します。

本作は、ソフィー・マルソーのデビュー作『ラ・ブーム』で父を演じたクロード・ブラッスールと再び共演している点も注目に値します。二人は、本作で激しいラブシーンも演じており、それまでのイメージを覆す演技を見せています。

また、セザール賞最優秀助演女優賞にノミネートされたマリー・デュボアなど、実力派俳優たちの演技も見どころです。美しい風景と、緊迫感あふれるストーリーが絶妙に融合した、忘れられない映画体験を約束する作品です。

この映画は、夫婦関係の崩壊、暴力の連鎖、そして人間の心の闇を鮮やかに描き出しています。美しいリゾート地という対比的な背景が、物語にさらに深みを与えていると言えるでしょう。

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